修繕と設備
建物や設備が壊れたときに、誰が修繕し、費用を負担するかを確かめます。民法は、貸主が、使うのに必要な修繕をする義務を負うと定めています(借主の責任で修繕が必要になった場合を除く。民法第606条第1項)。借主が建物のために必要な費用や、建物の価値を高める費用を払った場合は、貸主に償還を請求できることがあります(民法第608条)。契約書で、修繕の負担の区分と、借主が払った費用の扱いをどう決めているかを確かめます。
| 設備 | 確かめること |
|---|
| シャッター・搬入口 | 故障したときの修理の負担 |
| 空調・冷凍冷蔵の設備 | 貸主の設備か、借主が持ち込むか。故障のときの負担 |
| 照明 | 交換の負担。LEDに替える工事をしたときの退去時の扱い |
| 床 | フォークリフトでできた傷やひびの補修の負担 |
原状回復
民法の原則と特約
民法は、借主が元に戻す損傷から、通常の使用によって生じた損耗と、年数がたって生じた変化(経年変化)を除いています(民法第621条)。ただし、契約書の特約で、借主が戻す範囲を広げていることがあります。
最高裁は、通常の使用による損耗まで借主が補修費用を負担する特約について、負担する範囲が契約書に具体的に書かれているか、口頭で説明されて借主が明確に認識し合意したなど、明確な合意が必要だと判断しています(最高裁平成17年12月16日判決)。これは住宅の事例ですが、契約書の原状回復の条項が、どこまでを借主の負担として具体的に書いているかは、倉庫の契約でも確かめる出発点になります。
倉庫で確かめる原状回復の項目
| 項目 | 確かめること |
|---|
| 床 | フォークリフトの傷、ラックを固定した穴、床のラインを戻すか |
| ラック・中二階 | 撤去が要るか、次の借主に引き継げるか |
| 照明・電気 | 増設した照明や電気の設備を撤去するか |
| 壁・天井 | 穴あけや設備の取り付けの跡 |
| 外まわり | シャッター、外構、看板 |
| 工事の業者 | 貸主が指定する業者で工事するか |
| 入居時の状態 | 入居時の写真や図面を、契約書に添えるか |
入居時の状態を写真と図面で残し、契約書に添えておくと、退去のときに「どこまで戻すか」で食い違ったときの判断の材料になります。退去のときの精算は「倉庫・工場を退去するときの保証金の精算」で説明しています。
転貸と名義
グループ会社や取引先に倉庫の一部を使わせる予定があるなら、契約書の転貸の条項を確かめます。民法は、借主は貸主の承諾を得なければ、賃借権を譲り渡したり、転貸したりできないと定め、違反して第三者に使わせたときは、貸主は契約を解除できるとしています(民法第612条)。ただし最高裁は、貸主への背信的な行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、解除できないと判断しています(最高裁昭和28年9月25日判決)。使わせる予定があるなら、契約の段階で承諾をもらっておきます。仕組みは「又貸し(転貸)とは」で説明しています。
保証
連帯保証人を立てる場合、個人が保証人になるなら、保証する上限の額(極度額)を書面で決めなければ、保証の契約は効力を生じません(民法第465条の2)。極度額は、保証人が負うことがある最大の額なので、賃料の額と期間に見合っているかを確かめます。仕組みは「連帯保証人の極度額とは」で説明しています。保証会社を使う場合は、保証料と保証の範囲を確かめます。
明け渡しの期限と、遅れたときの損害金
契約が終わったあと、明け渡しが遅れたときの損害金の定めも確かめます。たとえば「明け渡しが遅れたときは、遅れた期間について賃料の倍額に当たる損害金を払う」という定めなら、月額賃料120万円の倉庫で明け渡しが1か月遅れると、240万円を払うことになります(金額は計算のための例です)。倉庫の明け渡しには、荷物の移動、ラックの撤去、原状回復の工事が要るため、解約の予告の期間の中に、これらの工程が収まるかを確かめておきます。
条項の例と読み方
契約書の条項は、同じ項目でも書き方で意味が変わります。書き方の例と、読むときの点です(条項は書き方の例です)。
| 項目 | 条項の書き方の例 | 読むときの点 |
|---|
| 保証金の返還 | 「本契約が終了し、乙が本物件を明け渡したときは、甲は保証金から乙の債務を差し引いた残額を、明け渡しの日から3か月以内に返還する」 | 返す期限と、差し引く債務の範囲 |
| 償却 | 「保証金のうち賃料の1か月分を、契約の終了時に償却する」 | 償却の額が月数か割合か、入居年数で変わるか |
| 追加の預け入れ | 「賃料が改定されたときは、保証金を改定後の賃料の6か月分とする」 | 賃料が上がると、保証金も追加で預ける |
| 中途解約 | 「乙は6か月前に書面で予告して解約できる。予告に代えて6か月分の賃料を払い、直ちに解約できる」 | 予告の期間と、賃料で代えられるか |
| 置ける物 | 「乙は、消防法上の危険物その他甲が指定する物を持ち込まない」 | 自社の保管物が当てはまらないか |
| 床の荷重 | 「乙は、床の1㎡あたり○kgを超える物を置かない」 | ラックと荷物の重さで超えないか |
| 原状回復 | 「乙は、明け渡しまでに本物件を原状に復する。ただし、通常の使用による損耗を除く」 | 通常損耗を除くか、特約で借主の負担にしているか |
契約書と一緒に受け取る書類
| 書類 | 確かめること |
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| 定期借家の説明の書面 | 更新がなく期間の満了で終わることの説明。受け取っていなければ、更新がない定めは無効になる(借地借家法第38条第3項・第5項) |
| 保証金の預り証 | 額と預けた日。退去まで保管する |
| 図面・設備の一覧 | 区画の範囲、貸主の設備と借主の設備の区分 |
| 入居時の状態の記録 | 床や壁の傷、残っている設備の写真。退去のときの比べる材料 |
| 使用の細則(管理規則) | 出入りの時間、車両、ごみ、共用部の使い方 |
契約の前に交渉しておくこと
| 交渉すること | 理由 |
|---|
| 保証金の月数と償却 | 預ける額と、返ってこない額が決まる |
| 中途解約の予告の期間 | 移転すると決めたあとも賃料を払う期間になる |
| 原状回復の範囲 | 退去のときの工事費と、返ってくる保証金の額が決まる |
| 床の荷重と置ける物 | 使い方の制限で、借りた倉庫を使い切れないことを防ぐ |
| 定期借家の再契約 | 入居の工事にかけた費用を回収できるか |
| 転貸の承諾 | グループ会社などに使わせる予定があるとき |
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よくある質問
倉庫の契約で、保証金はいつ返ってきますか?
賃貸借が終わって倉庫を返したあとです(民法第622条の2第1項)。明け渡しから何か月以内に返すかを、契約書で決めていることがあります。
契約書の「保証金」と「敷金」は違うものですか?
民法は、名目にかかわらず、賃料などの支払いを担保するために渡すお金を敷金と定めています(民法第622条の2第1項)。中身が担保なら、呼び方が保証金でも同じ扱いです。建設協力金のように、貸主に貸すお金は別の扱いです。
倉庫の契約を途中で解約できますか?
契約の中途解約の条項で決まります。事業用の倉庫の定期借家には、法律上の途中解約の申入れの権利はありません(借地借家法第38条第7項は居住用で200㎡未満に限っています)。予告の期間と違約金を、契約の前に確かめます。
定期借家の倉庫は、期間が終わったら必ず出なければいけませんか?
定期借家は期間の満了で終わります(借地借家法第38条第1項)。続けて使うには、貸主と新たに契約(再契約)します。1年以上の契約では、貸主は期間の満了の1年前から6か月前までに終了を通知する必要があり、遅れた場合は通知から6か月は明け渡さなくてよいとされています(同条第6項)。
原状回復はどこまでしなければいけませんか?
民法の原則では、通常の使用による損耗と経年変化は除かれます(民法第621条)。ただし、契約の特約で範囲を広げていることがあり、その場合は特約の内容が具体的に合意されているかが問題になります(最高裁平成17年12月16日判決、住宅の事例)。入居時の状態を写真と図面で残しておきます。
賃料が上がると、保証金も増えますか?
契約に「賃料が改定されたときは、保証金を改定後の賃料の○か月分とする」といった定めがあれば、増えます。月額賃料120万円・保証金6か月分(720万円)の倉庫で賃料が130万円に上がると、保証金は780万円になり、60万円を追加で預けることになります(金額は計算のための例です)。この定めがあるかは、契約の前に確かめます。
グループ会社に倉庫の一部を使わせてもよいですか?
貸主の承諾が必要です(民法第612条)。承諾なしに使わせると、契約の解除の理由になることがあります。契約の段階で、使わせる相手と範囲を伝えて承諾をもらっておきます。
まとめ
- 契約の種類(普通借家・定期借家)で、期間の終わり方と途中解約の扱いが変わる
- 途中で解約できるか、予告の期間、違約金は、契約の条項で決まる
- 保証金は、名目にかかわらず担保なら敷金と同じ扱いになる
- 保証金は、返す時期・差し引くもの・償却・追加で預ける定めを確かめる
- 建設協力金は担保ではなく貸主に貸すお金なので、返してもらう方法を確かめる
- 置ける物・床の荷重・出入りの時間など、使い方の制限を確かめる
- 原状回復は、民法の原則(通常損耗と経年変化は除く)と特約の範囲を照らし、入居時の状態を残しておく
- 保証金は、保証に置き換えて減らしたり、入居したまま返してもらったりできる
出典:民法第465条の2・第605条の2・第606条・第608条・第612条・第618条・第621条・第622条の2、借地借家法第26条・第28条・第32条・第38条、倉庫業法第3条、最高裁判所 昭和28年9月25日判決・平成17年12月16日判決、国税庁「No.6225 地代、家賃や権利金、敷金など」、国土交通省「倉庫業登録申請の手引き」、東京消防庁「少量危険物貯蔵取扱所、指定可燃物貯蔵取扱所設置(変更)届出書」。