敷金・保証金

敷引きとは|償却との違いと事業用の保証金

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敷引きとは|償却との違いと事業用の保証金

オフィスや店舗の賃貸借契約書に「保証金10か月、敷引3か月」と書かれていることがあります。敷引きは、明け渡すときに保証金から一定の額を差し引き、残りだけを返すという取り決めです。預けた保証金がそのまま戻ると考えていると、退去のときに想定より少ない額しか返ってこないことになります。

敷引きについては、住宅の契約をめぐって最高裁の判断が出ており、「高すぎる敷引きは無効」という情報を目にすることもあります。ただ、その判断は、個人が住まいを借りる消費者契約についてのものです。会社がオフィスや店舗を借りる事業用の契約では、前提が大きく違います。

この記事では、敷引きの意味、償却・原状回復・礼金との違い、契約書での書き方と計算方法、最高裁の判断と事業用で違う点、大阪と東京の保証金の月数、敷引きのある物件の比べ方、会計・消費税・印紙税の扱い、契約前に確かめることを整理します。

敷引きとは

保証金から一定額を差し引いて返さない取り決め

敷引きとは、賃貸借が終わって物件を明け渡すときに、預けた保証金(敷金)から契約で決めた額を差し引き、貸主が受け取るという取り決めです。差し引かれた分は、借主には返ってきません。

民法は、敷金を「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定めています(第622条の2)。契約書で「保証金」と呼ばれていても、この性質のお金であれば敷金と同じルールが当てはまり、明け渡したあとに、未払いの賃料などを差し引いた残りを返すのが原則です。敷引きは、この原則とは別に、「一定の額は返さない」と契約で合意する特約です。

敷引き・償却・解約引きは同じ仕組み

契約書では、「敷引き」のほか、「償却」「保証金償却」「解約引き」などの言葉が使われます。呼び方は物件や貸主によって違いますが、いずれも預けたお金のうち一定額を返さないという点で同じ仕組みです。言葉にとらわれず、解約・明渡し・精算の条項で「返還しない」「控除する」と書かれている額がないかを確かめます。償却の書き方や、東京のオフィスで償却がある割合は「敷金償却(保証金償却)とは」で整理しています。

原状回復の費用との関係は、契約で二通りある

敷引きと原状回復の費用がどういう関係にあるかは、契約によって違います。

定め方差し引かれるもの条文の例
敷引きで通常の損耗の補修をまかなう敷引きの額。通常の使用による傷みは、借主が原状回復しなくてよい「通常損耗等については敷引金により賄い、賃借人は原状回復を要しない」
敷引きとは別に原状回復の費用も負担する敷引きの額と、原状回復の工事費の両方「敷引とは別に、賃借人の費用で原状に復して明け渡す」

後者の場合、きれいに使っていても敷引き分は戻らず、そのうえ工事費も差し引かれます。どちらの定め方かによって、退去時に戻る額は大きく変わります。

礼金との違い

敷引きも礼金も、借主に返ってこないお金です。違うのは、払う時期と、それまでの資金の負担です。

項目礼金敷引き
払う時期契約するとき退去するとき(保証金から差し引く)
入居中の資金払った時点で手元から出ていく差し引かれる分も含めて、保証金として預けたまま
返ってくるか返ってこない返ってこない
額が変わる場合契約時に確定入居期間や賃料の改定で変わる定めがある

礼金は契約の時点で支払いが終わりますが、敷引きは、その分を含む保証金を入居中ずっと預けておく必要があります。敷引きのある物件では、預ける保証金の総額が大きくなりやすく、入居時の資金の負担は礼金より重くなることがあります。

敷引きの書き方と計算方法

敷引きの額の決め方には、主に次のような書き方があります。金額は、月額賃料50万円、保証金500万円(10か月分)の場合の例です。

書き方敷引きの額戻ってくる額
賃料の月数(敷引 賃料3か月分)150万円350万円
保証金の割合(解約時に保証金の20%を控除)100万円400万円
定額(敷引金120万円)120万円380万円
入居期間に応じて変わる(1年未満4か月、3年未満3か月、3年以上2か月)期間による期間による

返ってくる額は、ほかに未払いの賃料や原状回復の費用がない場合です。

入居期間に応じて額が変わる定め方は、期間が長いほど敷引きが小さくなるようにも、大きくなるようにも決められます。最高裁で争われた住宅の事例では、入居期間が長いほど差し引く額が大きくなる定めでした。

最高裁で争われた敷引特約の事例。京都市のマンション、賃料月9万6千円、保証金40万円。明渡しまでの経過年数に応じて、1年未満18万円、2年未満21万円、3年未満24万円、4年未満27万円、5年未満30万円、5年以上34万円を差し引く定め。約1年8か月で退去し、21万円が差し引かれ19万円が返還された

賃料が改定されたときの敷引き

敷引きを「賃料の○か月分」で定めている場合、基準になる賃料が「契約時の賃料」なのか「退去時の賃料」なのかで、額が変わります。たとえば、契約時の月額賃料50万円が、更新のときに55万円に改定された場合、敷引き3か月分は次のようになります。

基準の賃料敷引き税込(10%)
契約時の賃料(50万円)150万円165万円
退去時の賃料(55万円)165万円181.5万円

基準の賃料と消費税の扱いの組み合わせだけで、31.5万円の差が出ます。契約書にどちらとも書かれていない場合は、契約の時点で「契約時の賃料を基準とする」と明記するよう求めると、あとで争いになりません。

退去時の精算の例

月額賃料50万円(税別)、保証金500万円(10か月分)、敷引き3か月分(税別)の契約で、5年入居して退去した場合の精算は、たとえば次のようになります。原状回復の費用は、敷引きとは別に借主が負担する契約とします。

項目金額
預かり保証金5,000,000円
敷引き(契約時の賃料3か月分)▲1,500,000円
敷引きの消費税▲150,000円
原状回復工事(税込)▲880,000円
返還額2,470,000円

預けた500万円のうち、返ってくるのは半分以下です。入居中の5年間、500万円を預けたままにしていたことも含めて、この物件の費用として考える必要があります。

最高裁の判断と、事業用で違うところ

住宅の敷引きについての最高裁の判断

最高裁は、平成23年3月24日の判決で、消費者契約である住宅の賃貸借契約に付けられた敷引特約について、次のように判断しました。

  • 敷引特約は、直ちに賃借人の利益を一方的に害するものとはいえない
  • ただし、通常の使用による損耗の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金などほかの一時金の有無と額などに照らして、敷引金の額が高すぎると評価される場合は、賃料が相場より大幅に安いなどの特段の事情がない限り、消費者契約法第10条により無効になる

この事例では、保証金40万円から経過年数に応じて18万円から34万円を差し引く定めで、敷引金は賃料月額の2倍弱から3.5倍強にとどまり、借主は更新料のほかに礼金などの一時金を払っていなかったことから、高すぎるとはいえず無効ではないとされました。

事業用の契約には、消費者契約法が使えない

この判断の土台になっている消費者契約法は、「消費者」と「事業者」の間の契約に適用される法律です。同法は、消費者を「個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)」と定めています(第2条)。会社がオフィスや店舗を借りる契約はもちろん、個人事業主が事業のために借りる契約も、消費者契約にはあたりません。

つまり、事業用の敷引きについては、「高すぎるから消費者契約法で無効」という主張は使えません。事業用の敷引きは、原則として契約で合意した内容がそのまま基準になります。敷引きの額に納得できないなら、署名する前に交渉するしかない、というのが事業用の契約の前提です。

大阪と東京の保証金の月数

当社が運営するオフィス検索サイト「Growth Office」に掲載中の、大阪府と東京都の空室区画について、保証金(敷金)の月数を広さ別に比べました。大阪府の空室区画はすべて20坪以上のため、20坪以上の区画どうしで比べています。保証金の月数がわかる区画は、大阪府934区画、東京都3,034区画です。

大阪府と東京都の空室区画の保証金の月数。中央値は、20〜50坪で大阪約4か月・東京6か月、50〜100坪で大阪約7か月・東京10か月、100坪以上で大阪10か月・東京12か月。10か月以上の区画の割合は、20〜50坪で大阪26%・東京27%、50〜100坪で大阪43%・東京51%、100坪以上で大阪63%・東京85%

どの広さでも、預ける月数の中央値は大阪の方が東京より少ない結果でした。ただし、大阪でも100坪以上では6割を超える区画が10か月以上です。また、このデータには敷引きの有無が含まれていないため、月数が少なくても、敷引きがあれば返ってくる額はその分だけ減ります。保証金の月数と敷引きの額は、必ずセットで見ます。

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敷引きのある物件の比べ方

敷引きのある物件とない物件を比べるときは、「入居中に預けておくお金」と「退去時に返ってこないお金」を分けて見ます。月額賃料50万円の物件で比べると、次のようになります。

項目物件A物件B
条件保証金10か月・敷引3か月敷金6か月・敷引なし
入居時に預けるお金500万円300万円
退去時に返ってこないお金(敷引き)150万円0円
退去時に返ってくるお金350万円300万円

賃料が同じなら、物件Bの方が、預ける額も返ってこない額も少なくなります。物件Aを選ぶ理由があるとすれば、賃料が安い、立地や設備が優れているなど、ほかの条件です。たとえば物件Aの賃料が月3万円安ければ、入居50か月で敷引き150万円と同じ額になります。入居の予定期間と、預けたお金を入居中に使えないことによる資金の負担もあわせて比べます。

会計・消費税・印紙税の扱い

会計

返ってこない敷引きの分は、入居期間にわたって費用にしていくのが基本です。2027年4月1日以後に開始する事業年度から適用される新しいリース会計基準では、返還されないことが契約上定められている額は、使用権資産の取得価額に含めるとされています(企業会計基準適用指針第33号 第34項)。仕訳や税務上の扱いは「敷金の会計処理」で詳しく整理しています。

消費税

事業用の建物の賃貸借で、賃貸借期間の経過などにより返還しないこととなる保証金や敷金は、権利の設定の対価として消費税の課税対象になります(消費税法基本通達5-4-3)。契約書で敷引きの額が税別とされていれば、敷引きの額とは別に消費税相当額が差し引かれることがあります。なお、返還することとされている保証金や敷金そのものは、課税の対象ではありません。

印紙税

貸主が保証金を受け取ったときに出す預り証は、印紙税の「売上代金以外の金銭の受取書」(第17号の2文書)にあたり、記載金額が5万円以上なら200円の印紙が必要です。ただし国税庁は、保証金のうち契約終了時に返済しないこととしている額は権利金と同一視され、売上代金になるとしています。敷引きのある保証金の預り証は、印紙税額の判定が変わることがあります。

契約する前に確かめること

  • 敷引きの有無と額:「敷引」「償却」「解約引き」「控除」「返還しない」といった定めを、解約・明渡し・精算の条項まで読んで探す
  • 計算の基準:賃料の月数なら、契約時と退去時のどちらの賃料か。消費税を加えるか
  • 入居期間による変化:期間に応じて額が変わる定めか。早く退去すると増えるのか、減るのか
  • 原状回復との関係:敷引きで通常の損耗の補修をまかなうのか、別に原状回復の費用もかかるのか
  • 更新時の扱い:更新のたびに敷引きや償却が発生する定めがないか
  • ほかの一時金:礼金、更新料など、敷引き以外に返ってこないお金がないか

敷引きは交渉できる

事業用の敷引きは、契約で合意した内容が基準になる分、契約前であれば交渉の対象になります。空室の期間が長い区画や、長期の入居を約束できる場合は、敷引きの月数を減らす、入居期間が長いほど敷引きが小さくなる定めにする、原状回復の費用と二重にならないようにする、といった提案が通ることがあります。契約書の案を受け取ったら、敷引きの条項を次のように書き換えられないかを相談します。

案の書き方求める書き方変わること
明渡し時に、保証金から賃料の3か月分を控除する明渡し時に、保証金から契約時の月額賃料の2か月分(消費税を含む)を控除する月数と基準の賃料、消費税の扱いが明確になる
敷引きとは別に、賃借人の費用で原状回復を行う通常の使用による損耗の補修は敷引金でまかない、賃借人は原状回復を要しない敷引きと原状回復の費用が二重にならない
更新のたびに保証金の10%を償却する更新時の償却は行わない長く入居しても保証金が目減りしない

交渉の進め方や文例は「敷金償却(保証金償却)とは」も参考にしてください。

預ける保証金そのものを減らす

敷引きは退去時に差し引かれるものですが、保証金そのものは、入居している間ずっと貸主に預けたままで、事業には使えません。保証金の月数が多い物件ほど、手元の資金が減ります。

当社の「敷金半額くん」は、新しく借りるオフィスや店舗の敷金・保証金を、半額から最大0円まで減らすサービスです。減らした分の代わりに、当社が貸主に保証を提供します。敷引きが保証金の割合で決まる契約では、預ける額を減らすと敷引きの額も変わることがありますが、月数や定額で決まる契約では、敷引きの額は変わりません。そのため、敷引きの条件の交渉と、預ける額を減らすことは、分けて考えます。すでに入居している場合は、預けている敷金の半額から最大全額を入居したまま取り戻す「敷金返還くん」もあります。どちらも、利用には当社の審査と貸主の承諾が必要で、当社への保証料がかかります。

よくある質問

敷引きと敷金償却は違うものですか?

呼び方が違うだけで、預けたお金のうち契約で決めた額を返さないという仕組みは同じです。契約書によっては「解約引き」「保証金償却」とも書かれます。

事業用でも、敷引きが高すぎれば無効になりますか?

住宅の敷引きについての最高裁の判断は、消費者契約法を土台にしています。会社や個人事業主が事業のために借りる契約は消費者契約にあたらないため、同じ理屈で無効を主張することはできません。事業用では、契約前の交渉が現実的な対応です。

敷引きがあっても、原状回復の費用は別に取られますか?

契約によります。敷引きで通常の損耗の補修をまかない、原状回復を不要とする契約もあれば、敷引きとは別に原状回復の費用を差し引く契約もあります。

途中で解約すると、敷引きは増えますか?

入居期間に応じて額が変わる定めや、中途解約の違約金の定めがあれば、退去の時期によって負担が変わります。解約の条項とあわせて確かめます。

敷引きの交渉は、いつすればよいですか?

申込みのあと、契約書の案を受け取った段階が現実的です。署名したあとに条件を変えるのは難しくなります。賃料や入居の時期とあわせて、敷引きの月数や基準の賃料、原状回復との関係をまとめて相談します。

敷引きの分に消費税はかかりますか?

事業用の建物では、返還しないこととなる保証金は権利の設定の対価として課税の対象になります(消費税法基本通達5-4-3)。契約書で税込か税別かを確かめます。

入居中にビルが売却されたら、敷引きの定めはどうなりますか?

対抗要件を備えた賃貸借では、建物が売却されると、貸主の地位は新しい所有者に移り、敷金を返す義務も新しい所有者が引き継ぎます(民法第605条の2)。契約の内容はそのまま続くため、敷引きの定めも新しい貸主との間で生きています。売却の通知を受けたら、保証金の額と敷引きの条件が引き継がれているかを書面で確かめておくと安心です。

まとめ

  • 敷引きは、明け渡すときに保証金から契約で決めた額を差し引き、返さない取り決め。償却・解約引きと同じ仕組み
  • 敷引きで通常の損耗の補修をまかなう契約と、敷引きとは別に原状回復の費用もかかる契約がある
  • 最高裁は住宅の敷引きについて「高すぎれば消費者契約法で無効になりうる」と判断したが、事業用の契約は消費者契約にあたらず、合意した内容が基準になる
  • Growth Office掲載の空室区画では、保証金の月数の中央値は大阪の方が東京より少ない。ただし敷引きの有無で返ってくる額は変わる
  • 比べるときは、預ける額と返ってこない額を分けて見る。敷引きの交渉とは別に、預ける保証金そのものを減らす方法もある

出典:民法第605条の2・第622条の2、消費者契約法第2条・第10条、最高裁判所 平成23年3月24日判決(平成21(受)1679)、消費税法基本通達5-4-3、国税庁 質疑応答事例「賃貸借契約に基づく保証金の預り証」、企業会計基準適用指針第33号第34項、Growth Office 掲載データ(大阪府・東京都の空室区画、2026年9月29日時点、20坪以上で保証金の月数がわかる大阪府934区画・東京都3,034区画)。

Tags#敷金・保証金
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