オフィス・店舗の賃料が値上げされる理由
法律が認めている3つの事情
建物の賃料の増額・減額は、借地借家法第32条で定められています。賃料が次のような事情で「不相当」になったとき、貸主と借主のどちらからでも、将来に向かって賃料の増額や減額を求めることができます。
- 土地や建物にかかる税金などの負担が増えた、または減った
- 土地や建物の価格が上がった、下がったなど、経済の状況が変わった
- 近くの同じようなビルの賃料と比べて、いまの賃料が低すぎる、または高すぎる
この権利は「契約の条件にかかわらず」使えるとされています。契約書に賃料の改定について何も書いていなくても、貸主は値上げを求めることができます。
いまの東京は値上げを求められやすい
三幸エステートとニッセイ基礎研究所の「オフィスレント・インデックス」によると、東京都心部のAクラスビルの成約賃料は、2026年4〜6月期に1坪あたり38,259円(共益費を除く)となり、11期連続で上がりました。空室率は0.8%まで下がっています。
周りのビルの賃料が上がると、貸主は「近くのビルと比べて安すぎる」ことを理由に値上げを求めやすくなります。更新の時期に、改定の案が届くことがよくあります。
貸主が気にしていること
値上げを求める貸主も、賃料だけを見ているわけではありません。貸主にとって大事なことは、おおむね次の4つです。
- 賃料の収入:ビルの借入の返済や修繕の費用にあてる、安定した収入
- 空室を出さないこと:借主が出ていくと、次の借主が決まるまで賃料が入らず、募集の費用もかかる
- 担保の確保:賃料の滞納や、退去時の原状回復に備えるお金(敷金)
- 手間の少なさ:話し合いが長引いたり、調停や裁判になったりしないこと
この4つは、あとで説明する交渉の条件を考えるときの手がかりになります。
賃料の値上げは拒否できるか
合意しなければ、その場で金額は決まらない
貸主が値上げを求めても、借主が合意しなければ、話し合いが続きます。借地借家法第32条第2項では、増額の話し合いがまとまらないとき、借主は増額が正しいとする裁判が確定するまで、自分が相当と考える額の賃料を払えばよいとされています。多くの場合は、それまでの賃料を払い続けます。
ただし、裁判で増額が正しいと認められた場合は、それまでに払った額との差額に、年1割の利息をつけて払わなければなりません。根拠のある値上げを断り続けると、あとでまとめて払う額が大きくなります。
拒否しやすい場合と、しにくい場合
| 場面 | 見通し |
|---|
| 契約書に「一定の期間は賃料を増額しない」特約があり、その期間中 | 特約が優先されるため、応じる必要はない(借地借家法第32条第1項ただし書き) |
| 貸主が示す根拠が弱い(比べたビルの規模や築年数、立地がかけ離れている) | 周辺の賃料を示して、値上げ幅を小さくする交渉がしやすい |
| 周辺の賃料が上がっており、根拠がある | 断り続けると、あとで差額と利息を払うおそれがある。条件を付けて受け入れる交渉が現実的 |
裁判の前に、まず調停
賃料の増額・減額をめぐって裁判を起こすときは、民事調停法第24条の2により、まず調停を申し立てなければならないと定められています。いきなり裁判になるのではなく、裁判所の調停委員を交えた話し合いの場が先に設けられます。
「値上げに応じないなら更新しない」と言われたら
借地借家法第26条では、期間の定めがある建物の賃貸借で、期間が満了する1年前から6ヶ月前までの間に、更新しない旨や、条件を変えなければ更新しない旨の通知がなければ、それまでと同じ条件で更新したものとみなされます。
貸主がこうした通知をするには、第28条により**「正当の事由」が必要**です。建物を使う必要性や、これまでの経緯、建物の状態などから判断されるもので、賃料の値上げに応じないことだけで直ちに認められるものではありません。とはいえ、関係が悪くなればその後の交渉が難しくなるため、話し合いで落としどころを探るのが現実的です。
なお、契約が定期建物賃貸借(定期借家)の場合は、更新の仕組みが普通の契約と異なります。契約書で契約の種類を確かめてください。
借主から減額を求めることもできる
借地借家法第32条は、貸主と借主のどちらからでも賃料の増減を求められる決まりです。周辺の賃料が下がった、建物が古くなり近くの同じようなビルより割高になった、といった事情があれば、借主から減額を求めることもできます。貸主が示した根拠を確かめる中で、逆にいまの賃料が高すぎるとわかった場合は、その資料を交渉の材料にできます。
値上げの通知が届いたら、まず確かめること
新しい賃料・時期・理由を書面で受け取る
口頭で「来期から上げたい」と言われただけでは、いくら、いつから、なぜ上げたいのかがはっきりしません。新しい賃料の額、上げる時期、値上げの理由を書面で出してもらいます。理由が「周辺相場」なら、比べたビルと賃料も示してもらいます。口頭で伝えられた場合も、書面での提示を求める返事をしておくと、根拠を確かめる時間をとれます(例文は後半の「値上げ交渉で使える例文」に載せています)。
契約書の中身
契約の種類(普通の賃貸借か、定期借家か)、契約期間と更新の条件、増額しない特約の有無、原状回復の範囲を確かめます。特約があれば、その期間は値上げに応じる必要はありません。
周辺の賃料相場の調べ方
同じエリアで、規模や築年数が近いビルの募集賃料を調べ、仲介会社にも意見を聞きます。当社が運営するオフィス検索サイト「Growth Office」でも、エリアごとに募集中の区画の賃料を確認できます。募集中の賃料と、実際に決まる賃料が違うこともあるため、複数の情報で判断します。
賃料の値上げ交渉の進め方

通知を受け取り、根拠と相場を確かめたら、移転した場合の費用と比べて、受け入れるかどうかを決めます。回答は「そのまま受け入れる」「断る」の二択にせず、条件を付けて受け入れる案を出すと、話がまとまりやすくなります。貸主にとっても、調停や裁判に時間と費用をかけるより、話し合いで決まるほうが負担が小さいからです。
移転した場合の費用と比べる
値上げを断って移転する場合、主に次の費用がかかります。
- 新しいオフィスの敷金:事業用の物件では賃料の8〜12ヶ月分が目安
- 仲介手数料:国土交通省の告示で、仲介会社が貸主と借主から受け取る合計が賃料の1ヶ月分の1.1倍(消費税を含む)以内と決められている
- 内装工事と引っ越しの費用
- いまのオフィスの原状回復の費用
- 賃料が重なる期間:新しいオフィスの契約開始から、いまのオフィスを明け渡すまで
たとえば月額100万円のオフィスに移る場合、敷金が12ヶ月分なら1,200万円、仲介手数料が最大で110万円かかり、ここに工事や原状回復の費用が加わります。5%の値上げで増える年間60万円と比べると、敷金と仲介手数料だけで20年分を超えます(敷金は退去時に戻る前提のお金ですが、その間は使えません)。移転の費用が値上げの何年分にあたるかを見ると、受け入れるかどうかを判断しやすくなります。
移転を選ぶ場合は、新しいオフィスに預ける敷金を減らす方法もあります。当社の「敷金半額くん」を使えば、契約時に預ける敷金を半額から最大0円まで減らせます(当社の審査と貸主の承諾が必要です)。
場面ごとの組み立て方
根拠の弱い値上げを求められたときは、周辺の募集賃料を集め、値上げ幅そのものを小さくする交渉から始めます。合意する額が決まったら、一定期間の据え置きを合意書に入れておきます。根拠が弱いまま調停や裁判に進んでも、貸主の求める額がそのまま認められるとは限らないため、貸主にとっても話し合いでまとめる利点があります。
相場どおりの値上げを求められたときは、額を大きく下げるのは難しいため、受け入れる前提で、次の節の条件を組み合わせます。開始時期を遅らせる、段階的に上げる、一定期間の据え置きを入れる、といった条件が中心になります。
大幅な値上げを求められたときは、移転した場合の費用と比べる意味が大きくなります。移転の見積もりを取ったうえで、段階的な引き上げと据え置きを組み合わせます。それでも折り合わなければ、移転も選択肢になります。