敷金・保証金

敷金の預り証と返還請求権|紛失・印紙・差押え

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敷金の預り証と返還請求権|紛失・印紙・差押え

オフィスや店舗を借りるときに預けた敷金は、何年も先、退去するときに戻ってくるお金です。そのあいだ、手元に残るのは、貸主が発行した「預り証」と賃貸借契約書くらいです。移転の準備をしていて預り証が見当たらない、ビルの所有者が変わって預り証の発行者と今の貸主が違う、取引先から「敷金を差し押さえる」という通知が届いた。そんな場面で、預けた敷金を返してもらう権利がどうなっているのかを知っておく必要があります。

預けた敷金を返してもらう権利は「敷金返還請求権」と呼ばれ、民法で、いつ、いくら返してもらえるかが定められています。預り証は、その権利の証拠のひとつにすぎず、なくしたからといって権利が消えるわけではありません。一方で、この権利は会社の財産として、譲渡や担保、差押えの対象にもなります。

この記事では、敷金の預り証の役割と記載事項、紛失したときの対応、預り証にかかる印紙税、敷金返還請求権がいつ、どれだけ生じるか、譲渡・担保・差押えとの関係、合併・事業譲渡や貸主が変わったときの扱い、請求できる期限を整理します。

敷金の預り証とは

敷金を受け取ったことを示す書面

敷金の預り証は、貸主が借主から敷金を受け取ったときに発行する書面です。借主にとっては、いくらの敷金を、いつ、どの物件の契約のために預けたかを示す証拠になります。

預り証を受け取ったら、次の項目が書かれているかを確かめます。

項目確かめること
物件と契約物件の所在地・名称、区画、賃貸借契約の日付
金額と名目敷金・保証金の額。名目が「保証金」でも敷金の性質のお金かどうか
償却・敷引き返さない額の定めがあるか。契約書の記載と合っているか
受け取った日振込日・受領日。振込の記録と合っているか
発行者貸主の名称と押印。管理会社の名義で発行されている場合は、誰の代理か

預り証は、たとえば次のような形です。

預り証 株式会社○○ 御中 金○○○万円也 ただし、令和○年○月○日付建物賃貸借契約(○○ビル○階)に基づく敷金として、上記金額を正に預かりました。本敷金の返還その他の取扱いは、同契約の定めによります。 令和○年○月○日 (貸主)○○株式会社 代表取締役 ○○○○

契約書に「敷金○○円を受領した」と具体的に書かれていて、別に預り証が発行されないこともあります。その場合は、契約書そのものが受け取ったことの証拠になります。

預り証と契約書の役割の違い

敷金をいつ、どう返すかという条件は、預り証ではなく賃貸借契約書で決まります。預り証は「受け取った」という事実を示すもので、返還の時期や差し引かれる額は、契約書の敷金・解約・明渡しの条項で確かめます。

預り証をなくしたら

返してもらう権利は消えない

敷金を返す義務は、民法第622条の2にもとづくもので、賃貸借が終わり、物件を明け渡したときに、敷金から借主の債務を差し引いた残りを返さなければならないと定められています。預り証を持っているかどうかで、返してもらえるかどうかが決まるわけではありません。

預けた事実を示す別の記録

預り証が見つからない場合でも、次のような記録で、敷金を預けた事実と額を示せます。

  • 賃貸借契約書(敷金の額と受領の記載)
  • 振込の記録(通帳、振込の控え、ネットバンキングの明細)
  • 会社の帳簿(差入保証金・敷金の勘定の残高)
  • 重要事項説明書や、契約時の精算書

貸主に確認書をもらう

移転の準備や決算の監査で必要になる場合は、貸主に「預り敷金の残高確認書」や預り証の再発行を依頼します。残高確認書には、預かっている額、償却の定め、未払いの有無が書かれていると、退去時の精算の見通しも立てやすくなります。ビルが売却されて貸主が変わっている場合は、今の貸主に、敷金を引き継いでいるかどうかもあわせて確かめます。

依頼の文面は、たとえば次のようにします。

○○ビル○階の建物賃貸借契約(令和○年○月○日締結)について、当社が差し入れている敷金の預り証が所在不明となりました。お手数ですが、貴社で預かっている敷金の額、償却などの定め、現時点での未払い額の有無を記載した残高確認書のご発行をお願いいたします。

移転の前にそろえておく書類

退去や移転が決まったら、精算で必要になる書類を物件ごとにそろえておきます。

  • 賃貸借契約書と、更新・賃料改定の合意書
  • 敷金の預り証、または残高確認書
  • 敷金を振り込んだ記録
  • 入居時の状態を示す写真・図面・引渡しの書面
  • 内装工事や設備の追加について、貸主の承諾を得た書面

預り証の印紙税

敷金の預り証は「売上代金以外の金銭の受取書」

国税庁は、敷金の預り証は金銭の寄託に関する契約書(第14号文書)ではなく、「売上代金以外の金銭の受取書」(第17号の2文書)にあたるとしています。賃貸借契約にともなう保証金の預り証も同じ扱いです。記載された金額が5万円以上なら、印紙税は200円です。

返さない部分は売上代金になる

国税庁は、保証金などと呼んでいても、契約終了のときに返さないこととしている額は、権利金と同じものとして売上代金になるとしています。売上代金の受取書は、受け取った金額に応じて印紙税額が上がる区分(第17号の1文書)です。償却や敷引きのある保証金の預り証は、書き方によって印紙税額が変わるため、発行する側(貸主)で確かめることになります。

受取書の区分例印紙税額
売上代金以外の金銭の受取書(第17号の2)返還する敷金・保証金の預り証5万円以上は一律200円
売上代金の金銭の受取書(第17号の1)家賃の受取書、返さない保証金にあたる部分5万円以上100万円以下200円から、金額に応じて段階的に上がる

印紙を貼るのは発行する貸主

印紙税を納める義務があるのは、課税文書を作った人です(印紙税法第3条)。敷金の預り証なら、発行する貸主が印紙を貼ります。貼るべき印紙が貼られていない場合、過怠税がかかるのも作成者の側です(同法第20条)。借主が受け取った預り証に印紙がなくても、借主が印紙税を負担することはありません。

敷金返還請求権とは

返してもらえる額が決まるのは、明け渡したとき

民法は、貸主は「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」に、受け取った敷金から「賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額」を差し引いた残りを返さなければならないと定めています(第622条の2第1項)。

つまり、入居している間は、将来いくら返ってくるかはまだ決まっていません。明け渡したときに、未払いの賃料や原状回復の費用などを差し引いた残りの額として確定し、その額を返してもらえる権利になります。

敷金返還請求権の流れ。契約して敷金を預ける(預り証、5万円以上は印紙200円)。入居中は、将来返ってくる額はまだ決まらず、譲渡・担保・差押えの対象になりうる。貸主は未払いに敷金を充てられるが、借主から充てるよう求めることはできない。明け渡すと、未払いなどを差し引いた残りの額で返してもらう権利が確定する。返還を求められる時から、知った時から5年で時効

入居中に敷金を賃料に充てることはできない

貸主は、借主が賃料などを払わないときに、敷金をその支払いに充てることができます。しかし、借主の側から「敷金を賃料に充ててほしい」と求めることはできません(民法第622条の2第2項)。入居中の敷金は、あくまで貸主が担保として持っているお金です。

賃借権を譲ったときも、敷金は前の借主に返る

民法は、借主が適法に賃借権を譲り渡したときも、貸主は敷金を返さなければならないと定めています(第622条の2第1項第2号)。事業譲渡や居抜きで賃借権を次の会社に譲る場合でも、預けた敷金は、原則として新しい借主に引き継がれるのではなく、前の借主に返されます。新しい借主は、あらためて敷金を預けることになります。

譲渡・担保・差押えとの関係

譲渡や担保に使える

敷金返還請求権は、金銭を返してもらう権利、つまり債権です。民法は、債権は原則として譲り渡すことができると定めています(第466条)。契約で譲渡を制限していても、譲渡そのものの効力は妨げられません(同条第2項)。ただし、制限を知っていた相手には、貸主が支払いを拒める場合があります(同条第3項)。

入居中の敷金返還請求権を譲渡したり、担保に入れたりして資金を得る方法は、「入居中のオフィスの敷金を資金にする4つの方法」で詳しく整理しています。

債権者に差し押さえられることがある

借主の会社に支払いの滞った債務があると、債権者は、裁判所の手続きで敷金返還請求権を差し押さえることがあります。債権に対する強制執行は、執行裁判所の差押命令で始まり(民事執行法第143条)、差押命令は、借主(債務者)に取立てなどの処分を禁じ、貸主(第三債務者)に借主への支払いを禁じます(同法第145条)。裁判所が公開している書式にも、「賃貸借契約に際し、第三債務者に差し入れた敷金(保証金名目のものを含む。)の返還請求権」を差し押さえる記載例があります。

差し押さえられても、入居を続けることはできます。明け渡したときに、貸主は未払いの賃料などを差し引いた残りを、差し押さえた債権者に支払うことになります。差押命令は、貸主だけでなく借主にも送られます(民事執行法第145条第3項)。届いたら、まず差押えのもとになっている債務を確かめ、支払いや分割の相談を急ぎます。

税金を滞納したときの差押え

税金の滞納がある場合は、裁判所の手続きを経ずに、税務署などが滞納処分として敷金返還請求権を差し押さえることがあります。国税の場合、債権の差押えは、第三債務者である貸主に「債権差押通知書」を送ることで行われ、滞納している会社には取立てなどの処分が禁じられます(国税徴収法第62条)。

差し押さえる人手続き始まり方
取引先・金融機関などの債権者民事執行(裁判所の手続き)執行裁判所の差押命令(民事執行法第143条)
税務署など滞納処分貸主への債権差押通知書の送達(国税徴収法第62条)

税金の支払いが苦しいときに使える猶予の制度は、「税金が払えないときの対処法」で整理しています。

スタートアップの新常識 オフィス移転の敷金、払わないという選択。 詳細を見る

合併・事業譲渡のときの敷金

会社の組織が変わるときの敷金の扱いは、方法によって違います。

方法賃借権と敷金の扱い
合併存続する会社が、消滅する会社の権利義務を引き継ぐ(会社法第750条)。賃貸借も敷金返還請求権も、そのまま存続する会社のものになる
事業譲渡賃借権を個別に譲り渡すことになり、貸主の承諾が必要(民法第612条)。適法に譲り渡したときは、敷金は原則として前の借主に返される(民法第622条の2第1項第2号)

事業譲渡で店舗やオフィスを引き継ぐ場合は、敷金をいったん返してもらって新しい会社が預け直すのか、当事者と貸主の合意で敷金を引き継ぐのかを、譲渡の契約と貸主との協議で決めておきます。何も決めずに進めると、譲り受けた会社は敷金を預け直すことになり、譲渡した会社には敷金が戻るという形になります。

貸主が変わったとき

入居中にビルが売却された場合、対抗要件を備えた賃貸借であれば、貸主の地位は新しい所有者に移り、敷金を返す義務も新しい所有者が引き継ぎます(民法第605条の2第1項・第4項)。預り証の発行者が前の所有者であっても、返してもらう相手は新しい所有者です。

売却の通知を受けたら、新しい貸主に、引き継いだ敷金の額と、償却などの条件を書面で確認しておきます。退去するときに「前の所有者から敷金を引き継いでいない」と言われたときの対応や、貸主が倒産した場合については、「オーナーが倒産・ビル売却したら敷金はどうなる?」をご覧ください。

請求できる期限

敷金返還請求権も、時効で消えます。民法は、権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年で、債権は時効によって消滅すると定めています(第166条)。敷金の返還を求められるのは明け渡したあとなので、明渡し(契約で返還の期日を定めていればその期日)から数えます。精算が長引いているときは、話し合いのあいだに期限が過ぎないよう、日付を記録しておきます。返ってこないときの進め方は「敷金が返ってこない・少ないときの対処」で整理しています。

会社の帳簿での扱い

預けた敷金は、返してもらうお金なので、支払ったときに費用にはならず、「差入保証金」「敷金」として資産に計上します。預り証や残高確認書は、この資産の残高を裏付ける書類です。決算の監査などで残高の確認を求められることもあるため、預り証、契約書、振込の記録は、物件ごとにまとめて保管しておきます。償却の部分や、新しいリース会計基準での扱いは、「敷金の会計処理」で整理しています。

入居中に、返してもらう権利を資金にする

敷金返還請求権は、明け渡すまで額が決まらず、原則として退去するまで現金になりません。その間、預けた敷金は会社の資産でありながら、事業には使えないお金です。

当社の「敷金返還くん」は、入居中のオフィスや店舗で預けている敷金の半額から最大全額を、入居したまま取り戻すサービスです。戻した分の敷金の代わりに、当社が貸主に保証を提供します。これから新しく借りる物件では、預ける敷金を半額から最大0円まで減らす「敷金半額くん」もあります。どちらも、利用には当社の審査と貸主の承諾が必要で、当社への保証料がかかります。

よくある質問

預り証がないと、敷金は返してもらえませんか?

返してもらえます。敷金を返す義務は民法にもとづくもので、預り証は受け取ったことの証拠のひとつです。契約書や振込の記録でも、預けた事実と額を示せます。

預り証に印紙が貼られていません。借主が払う必要がありますか?

ありません。印紙税を納める義務は、預り証を作った貸主にあります(印紙税法第3条)。

敷金返還請求権は、入居中でも差し押さえられますか?

差し押さえられることがあります。ただし、返してもらえる額は明け渡したときに確定するため、差し押さえた債権者が実際に受け取るのは、明渡しのあとに未払いの賃料などを差し引いた残りです。

賃借権を譲ったら、敷金は新しい借主に引き継がれますか?

原則として引き継がれません。民法は、借主が適法に賃借権を譲り渡したときは、貸主が敷金を返さなければならないと定めています(第622条の2第1項第2号)。新しい借主とのあいだで、敷金をどう扱うかを契約で決めることになります。

ビルの所有者が変わったら、預り証は書き換えが必要ですか?

法律上、敷金を返す義務は新しい所有者に引き継がれます。預り証の書き換えは必須ではありませんが、新しい貸主に、引き継いだ額と条件を書面で確認しておくと安心です。

社名を変えました。預り証の宛名が旧社名のままでも大丈夫ですか?

社名の変更(商号の変更)では、会社そのものは同じなので、敷金を返してもらう権利は変わりません。退去時の精算をスムーズにするため、社名を変えたことを貸主に届け出て、契約の名義の扱いを確かめておきます。

まとめ

  • 敷金の預り証は、敷金を受け取ったことを示す書面。返す時期や差し引かれる額は、預り証ではなく契約書で決まる
  • 預り証をなくしても、返してもらう権利は消えない。契約書、振込の記録、帳簿で預けた事実を示し、貸主に残高確認書を依頼する
  • 敷金の預り証は「売上代金以外の金銭の受取書」で、5万円以上なら200円の印紙。貼る義務は発行する貸主にある。返さない部分は売上代金になる
  • 敷金返還請求権は、明け渡したときに額が確定する。入居中でも、譲渡・担保・差押えの対象になり、貸主が変われば新しい所有者が返す義務を引き継ぐ
  • 請求できる期限は、知った時から5年。入居中に返してもらう権利を資金に戻す方法もある

出典:民法第166条・第466条・第605条の2・第612条・第622条の2、会社法第750条、国税徴収法第62条、民事執行法第143条・第145条、印紙税法第3条・第20条、国税庁 質疑応答事例「敷金の預り証」「賃貸借契約に基づく保証金の預り証」、国税庁「No.7141 印紙税額の一覧表(その2)」、松江地方裁判所「差押債権目録(敷金)記載例」。

Tags#敷金・保証金
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