売上の見込み方
日本政策金融公庫の解説では、理美容院の売上見込みは「客単価×椅子の台数×回転数」か「客単価×来店客数」で出すのが一般的とされています。先の1人の美容室で、客単価8,000円、1日6人、月24日営業とすると、次のとおりです。
| 項目 | 数字 |
|---|
| 1日の売上 | 8,000円×6人=4万8,000円 |
| 1か月の売上 | 4万8,000円×24日=115万2,000円 |
| 1年の売上 | 1,382万4,000円 |
| 椅子1台あたりの売上(年) | 691万2,000円 |
美容業の経営指標と比べる
日本政策金融公庫の「小企業の経営指標調査」(2025年度調査、2026年8月公表)には、美容業の経営指標があります。公庫が融資した従業者50人未満の法人のうち、美容業555社の決算(2024年7月以降の決算期)を集計したものです。
| 指標 | 全体の平均 | 全体の中央値 | 従業者1〜4人の平均 |
|---|
| 椅子1台あたりの売上高(年) | 787.5万円 | 657.2万円 | 614.2万円 |
| 売上高総利益率 | 84.4% | 87.6% | 84.6% |
| 人件費の売上に対する割合 | 41.9% | 43.8% | 36.6% |
| 諸経費の売上に対する割合 | 36.2% | 35.0% | 40.4% |
| 営業利益の売上に対する割合 | −1.9% | 0.1% | −3.0% |
従業者1〜4人の集計は219社です。先の例の椅子1台あたりの売上(年691万円)は、従業者1〜4人の平均(614万円)の約1.1倍で、全体の中央値(657万円)に近い水準です。見込みが大きく上回る場合は、客単価と1日の客数の前提を見直します。
売上高総利益率が約85%ということは、売上のうち材料などの原価は15%前後で、残りから人件費、家賃、水道光熱費などを払います。従業者1〜4人の美容室では、家賃などを含む諸経費が売上の約4割を占めます。
1人で営業する場合と、人を雇う場合
同じ調査で、従業者の人数ごとの平均を比べると、次のとおりです。
| 指標(平均) | 1〜4人(219社) | 5〜9人(184社) | 10〜19人(104社) |
|---|
| 椅子1台あたりの売上高(年) | 614.2万円 | 833.6万円 | 977.3万円 |
| 人件費の売上に対する割合 | 36.6% | 45.2% | 46.6% |
| 諸経費の売上に対する割合 | 40.4% | 34.5% | 32.9% |
| 営業利益の売上に対する割合 | −3.0% | −1.2% | −2.0% |
人数が多い店ほど、椅子1台あたりの売上は大きく、売上に占める人件費の割合も高くなります。1〜4人の店は、人件費の割合が低い代わりに、家賃などを含む諸経費の割合が約4割と高くなっています。少人数の店では、家賃が経営を左右しやすいということです。表の3つの規模では、営業利益の平均はどれもマイナスで、利益を残すには、家賃と人件費を売上に見合う額に抑える必要があります。
損益分岐点と1日に必要な客数
先の例の固定費は月20万円ですが、1人で営業する場合は、本人の生活費も売上からまかないます。生活費を月30万円、融資400万円を10年で返す元金を月約3.3万円として固定費に足すと、月約53.3万円です。美容業の売上高総利益率の中央値87.6%で割ると、次のとおりです。
| 項目 | 計算 | 結果 |
|---|
| 損益分岐点の売上(月) | 53.3万円÷87.6% | 約61万円 |
| 1日あたり(24日営業) | 61万円÷24日 | 約2.5万円 |
| 1日に必要な客数(客単価8,000円) | 2.5万円÷8,000円 | 約3.2人 |
金額は計算のための例です。日本政策金融公庫の「2025年度新規開業実態調査」では、開業前に予想していた月商を調査時点で達成していた人は58.7%で、41.3%は予想に届いていませんでした。開店直後は予想より客数が少ない前提で、運転資金を見込みます。
家賃と売上のバランス
先の例では、家賃10万円は月の売上115万円の8.7%です。経済産業省の「中小企業実態基本調査」(令和6年度決算実績)で、洗濯・理容・美容・浴場業の地代家賃は売上高の約5.9%(法人)、約7.5%(個人)でした。自社の建物で営業する企業も含めた平均なので、店を借りている美容室はこれより高くなります。家賃は売上より先に決まる固定費なので、物件を決める前に、見込みの売上と並べて確かめます。
美容所の数と開業・廃業
日本政策金融公庫の「理容業・美容業の創業ポイント」によると、厚生労働省の「令和4年度衛生行政報告例」で美容所は269,889軒あり、前の年度より5,666軒増えました。新しく確認を受けた美容所は14,934軒で、統計から逆算すると、閉鎖・廃業した美容所も9,268軒あります。同じ解説は、美容所の数は増え続けている一方で、競争は激しくなっていると見ています。開業する地域の店の数と、自分の店の客層や価格帯を、開業前に確かめます。
開業したあとに苦労すること
日本政策金融公庫の「2025年度新規開業実態調査」では、開業時に苦労したこと(三つまでの複数回答)は、「資金繰り、資金調達」が56.9%、「顧客・販路の開拓」が49.9%でした。調査の時点で苦労していることは、「顧客・販路の開拓」が48.8%、「資金繰り、資金調達」が36.2%です。採算は「黒字基調」が67.0%、「赤字基調」が33.0%でした(業種をまとめた数字)。開業の資金計画では、お客さまが定着するまでの期間の運転資金と、集客の費用を見込んでおきます。
開業資金を抑える方法
居抜きの物件を使う
前の美容室の内装やシャンプー台、給排水の設備が残っている居抜きの物件を使うと、工事を減らせます。ただし、残っている設備が誰のものか(前の借主か貸主か)、故障していないか、退去のときにどこまで元に戻すかを、契約の前に確かめます。前の借主に設備の代金(造作譲渡料)を払う場合は、その額も開業資金に入れます。前の店が美容所として使っていた物件でも、美容所を開設するときは開設届を出し、施設の検査を受けて確認を受けます。仕組みは「造作譲渡とは」で説明しています。
椅子の台数と広さを決めてから物件を探す
保証金は「月額賃料×月数」で決まるため、広い物件ほど賃料も保証金も大きくなります。1人で始めるなら、セット椅子とシャンプー台の台数、待合と受付の広さを先に決め、作業室13㎡以上を確保できる最小の広さで物件を比べます。
保証金を減らす
保証金を減らせれば、その分を内装や運転資金に回せます。当社の「敷金半額くん」は、新しく借りるオフィスや店舗の敷金・保証金を、半額から最大0円まで減らすサービスです。減らした分の代わりに、当社が貸主に保証を提供します。個人事業主や設立3期未満の会社も使えます。先の例なら、保証金100万円のうち50万〜100万円を、開業資金に回せます。利用には当社の審査と貸主の承諾が必要で、当社への保証料がかかります。
すでに営業している美容室なら、預けている保証金を入居したまま現金に戻す「敷金返還くん」もあります。2店舗目の出店や改装の資金にあてられます。
開業資金の集め方
美容業は、日本政策金融公庫の「生活衛生貸付」の対象です。理容業・美容業の設備資金は7,200万円まで借りられ、返済期間は13年以内です。申込金額が500万円を超える場合は、原則として都道府県知事の推せん書が必要です。
業種を問わない「新規開業・スタートアップ支援資金」も使えます。融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金20年以内、運転資金10年以内です。利用の条件に自己資金の割合の定めはありませんが、一般に自己資金は多いほうが金融機関から高く評価されやすいとされています。公庫の制度全体は「日本政策金融公庫の融資」、申し込む順番は「起業・開業の資金調達」で説明しています。
融資の相談では、売上見込みの根拠を示します。日本政策金融公庫の解説は、根拠の例として、前の勤務先の顧客のうち来店してもらえそうな人数、前の勤務先での集客の取り組みと成果、開業予定地の市場調査(客層や競合店)、SNSでの発信力、予定している広告とその効果の見通しを挙げています。
よくある質問
美容室の開業資金はいくら必要ですか?
物件と規模で大きく変わります。日本政策金融公庫の「2025年度新規開業実態調査」では、開業費用は平均975万円、中央値600万円でした(業種をまとめた数字)。この記事の1人・8坪の例では、運転資金3か月分を含めて650万円です。
1人で開く場合、どのくらいの広さが要りますか?
東京都の基準では、美容の作業室は13㎡以上で、美容いす6台までなら13㎡で足ります。作業室とは別に待合場所を分ける必要があるため、受付や待合を含めて物件の広さを見ます。基準は地域の保健所によって運用が違うことがあるので、物件の候補が決まったら図面を持って保健所に相談します。
開業する人が美容師でなくても開けますか?
開けます。美容所を開く人は美容師でなくてもかまいませんが、美容の仕事は美容師でなければ行えません。美容師が常時2人以上いる場合は、管理美容師を置きます。
保健所への届出はいつ出しますか?
新しく開くときは、開設の前に開設届を出し、施設が完成したあとに検査を受けます。東京都の南多摩保健所は、検査から事務処理に1週間ほどかかることがあるため、営業開始の予定日まで余裕をもって届け出るよう案内しています。
自己資金はいくら用意しますか?
日本政策金融公庫の調査では、開業時の自己資金は平均279万円でした。新規開業・スタートアップ支援資金には自己資金の割合の定めはありませんが、自己資金が少ないと、借りられる額が小さくなったり、審査が厳しくなったりすることを見込んでおきます。
預けた保証金は返ってきますか?
退去して店を返したあと、未払いの賃料や原状回復の費用、契約で決めた償却の分を差し引いて返ってきます。差し引かれるものは「敷金が返ってこない・少ないときの対処」で説明しています。
まとめ
- 美容室の開業資金は、店舗取得費、内外装工事、美容機器、什器備品の設備資金と、材料代・家賃・人件費などの運転資金に分けて見積もる
- 日本政策金融公庫の調査では、開業費用は平均975万円、中央値600万円(業種をまとめた数字)
- 1人・8坪の例では650万円。そのうち保証金100万円(15.4%)は退去まで返ってこない
- 物件の候補が決まったら、図面を持って保健所に事前相談する。開設の前に届け出て、完成後に検査を受ける
- 東京都の基準では、作業室は13㎡以上、待合場所は作業室と分ける
- 美容業の椅子1台あたりの売上は年657万円が中央値(従業者1〜4人の平均は614万円)。見込みと比べて前提を確かめる
- 保証金を保証に置き換えて減らせば、その分を内装や運転資金に回せる
出典:日本政策金融公庫総合研究所「2025年度新規開業実態調査」、日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」(2025年度調査、2026年8月公表。業種別(サービス業)、従業者規模別(サービス業))、日本政策金融公庫「理容業・美容業の創業ポイント」(2024年7月31日)「一般貸付(生活衛生貸付)」「新規開業・スタートアップ支援資金」「第6回 資金調達の準備をしよう」、東京都保健医療局「美容所の開設に関する基準等について」、東京都南多摩保健所「美容所」、国税庁「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」、経済産業省「中小企業実態基本調査」(令和6年度決算実績、売上高及び営業費用 産業中分類別表)、国土交通省「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」、Growth Office 掲載データ(東京都で募集中・公開中の区画のうち用途に店舗を含むもの。2026年10月1日時点)。