会社がバーチャルオフィスで借りるもの
バーチャルオフィスで借りるのは、部屋や机ではなく、住所の利用と郵便の取り扱いです。借りた住所を会社の本店として登記し、名刺・Webサイト・請求書に書き、その住所に届いた郵便を運営会社に受け取って転送してもらいます。電話番号の貸し出しや電話の受付、会議室の時間貸しは、オプションにしている会社が多くあります。
バーチャルオフィスDBに掲載されている運営会社139社のうち、129社に法人登記に使えるプラン(オプションで使えるものを含む)があります。ただし、いちばん安いプランは登記に使えない会社もあるため、会社で使うなら「登記できるプラン」の月額で比べます。
会社の住所の置き方は、大きく3つに分かれます。
| バーチャルオフィス | シェアオフィス・レンタルオフィス | 賃貸オフィス(事務所) |
|---|
| 借りるもの | 住所と郵便の取り扱い | 机や個室を使う権利と住所 | 区画そのもの |
| 働く場所 | なし(会議室は時間貸しが多い) | あり | あり |
| 本店の登記 | 登記できるプランなら可 | 登記できる物件なら可 | 可 |
| 入るときの費用 | 入会金(会社ごとの中央値5,500円)。保証金を求める会社もある | 入会金・保証金など | 敷金・礼金・仲介手数料・内装など |
| 事務所の要件がある許認可 | 認められにくい | 個室なら認められる場合がある | 要件を満たせば可 |
賃貸オフィスは建物の一部を借りる賃貸借契約で、バーチャルオフィスは住所の利用と郵便の取り扱いを委託する契約です。部屋を借りていないことが、費用の小ささの理由であり、許認可や郵便の制約の理由でもあります。
会社で使うメリット
毎月の費用と、入るときの費用が小さい
バーチャルオフィスDBの集計では、登記できるプランの月額の中央値は全国で4,840円、東京23区では4,180円(いずれも税込)です。入会金は、会社ごとのいちばん安いプランで見た中央値が5,500円(税込と税別が混在)で、0円の会社もあります。料金の分かれ方は、同サイトの「バーチャルオフィスの料金相場」にまとまっています。
事務所を借りる場合は、毎月の賃料に加えて、入るときに敷金を預けます。Growth Office で募集中の東京都のオフィス(2026年10月1日時点)を集計すると、20坪未満の区画では、敷金の月数の中央値が5か月分(357区画)、賃料を公開している149区画の月額賃料の中央値が約35万円、敷金の額の中央値が約157万円でした。広さ別・区別の数字は「オフィスの敷金の相場」で詳しく説明しています。
この中央値を使って、1年目に出ていくお金を比べると次のとおりです。バーチャルオフィスは東京23区の登記できるプランの中央値に入会金の中央値を足した額、事務所は20坪未満の区画の賃料と敷金の額の中央値です(仲介手数料・内装・家具などは含みません)。入会金と保証料は払い切りの費用、敷金は退去のときに返ってくる預け金です。
| バーチャルオフィス | 事務所 | 事務所(敷金を半額に) |
|---|
| 毎月の費用×12か月 | 5万160円 | 420万円 | 420万円 |
| 入会金(払い切り)・敷金(預け金) | 5,500円 | 約157万円 | 約78万5,000円 |
| 1年目に出ていくお金 | 5万5,660円 | 約577万円 | 約498万5,000円+保証料 |

敷金は、退去するときに未払いの賃料や原状回復の費用を差し引いて返ってくるお金です。とはいえ入居している間は使えないため、設立したばかりの会社にとっては、約157万円が採用や広告に回せない期間が、入居している間ずっと続くことになります。敷金を保証に置き換えて減らす方法を使う場合は、返ってこない保証料がかかるので、保証料と、手元に残せる資金で何ができるかを比べて決めます。
自宅の住所を、会社の本店として出さずに済む
株式会社を設立すると、「本店及び支店の所在場所」が登記されます(会社法第911条第3項第3号)。登記事項証明書は誰でも取れるため、自宅を本店にすると、自宅の住所が会社の住所として公開されます。自宅が賃貸住宅なら、賃貸借契約の使用目的が住居に限られていて、本店として使うことを認めていない場合もあります。本店をバーチャルオフィスにすれば、会社の住所として出るのはバーチャルオフィスの住所です。
ただし、株式会社では代表取締役の氏名と住所も登記されます(同項第14号)。本店をバーチャルオフィスにしても、代表取締役の自宅の住所は登記簿に載ります。これを避けるには、商業登記規則第31条の3の「代表取締役等住所非表示措置」を申し出ます。登記事項証明書などで、代表取締役の住所を行政区画(市区町村など)までしか表示しない措置で、次の点に注意します。
- 申し出られるのは、株式会社の設立の登記、別の管轄への本店移転の新所在地での登記、代表取締役の就任や住所変更の登記などを申請するとき
- 上場していない会社は、本店が実在することを示す書面(司法書士などの資格者代理人が確認した結果の書面、または会社あての書面が本店に配達証明郵便で送られたことを証する書面)、代表取締役の住所の公的な証明書、実質的支配者の書面を添える
- 本店がその場所に実在すると認められなくなると、措置は終わる
- 株式会社の代表取締役などが対象で、合同会社の代表社員は対象に挙がっていない
実在を示す書面のうち、司法書士に依頼しない場合に使えるのは配達証明郵便の方法です。バーチャルオフィスでこの措置を使い、自社で申請するなら、配達証明郵便を受け取れるかを契約の前に運営会社に確認します。受け取れない場合は、司法書士などに実在の確認を依頼する方法になります。
消費者向けにインターネットで商品やサービスを売る会社は、特定商取引法にもとづいて、広告に住所を表示します(事業者として購入する相手との取引は、この表示の対象外です)。消費者庁の特定商取引法ガイドは、表示する住所について、会社なら本店の所在地など営業上の活動の拠点となる場所を指し、私書箱の表示では足りないとしています。個人事業者がバーチャルオフィスの住所を表示してよいかという問いには、確実に連絡が取れることなどを条件に答えています。表示した住所あての郵便や問い合わせに、確実に対応できる体制にしておきます。
都心の住所を選べ、支店の住所にも使える
事務所を借りるには賃料の高い地域にも、住所を置けます。バーチャルオフィスDBに掲載されている東京の店は323店で、港区・中央区・渋谷区・千代田区・新宿区の5つの区に212店が集まっています。本店ではなく支店の住所として登記に使える会社も少なくとも11社あり、地方の会社が東京に窓口の住所を持つ使い方もできます。
使い始めるまでが早い
審査の日数を掲載している運営会社37社のうち、28社が「3営業日以内」です。物件を探し、貸主の審査を受け、契約して内装を整える事務所に比べると、住所を持つまでの日数は短くなります。運営会社によっては、契約書で決めた利用開始日以降でなければ登記に使えないため、会社の設立日が決まっている場合は、利用開始日が間に合うかを確認します。
会社で使うデメリット
同じ住所に同じ商号の会社があると、登記できない
バーチャルオフィスの住所には、多くの会社が本店を置いています。商業登記法第27条は、次のように定めています。
商号の登記は、その商号が他人の既に登記した商号と同一であり、かつ、その営業所(会社にあつては、本店。以下この条において同じ。)の所在場所が当該他人の商号の登記に係る営業所の所在場所と同一であるときは、することができない。
会社名を決める前に、その住所に同じ商号の会社が登記されていないかを確認します。定款や会社の印鑑を作ったあとで気づくと、作り直しになります。
住所から、バーチャルオフィスであることが分かる
同じ住所に多くの会社が本店を置いているため、取引先が住所を調べると、バーチャルオフィスであることが分かる場合があります。取引先や金融機関から会社の実態を聞かれたときに備えて、実際に仕事をしている場所、社員の人数、取引の実績を示せる資料を用意しておきます。
事務所の実体が必要な許認可を受けにくい
会社の登記ができても、許可や免許が必要な業種では、事務所や営業所の実体を求められます。
| 業種 | 事務所・営業所について求められること |
|---|
| 宅地建物取引業 | 継続的に営業の拠点となる施設としての実体。申請で事務所の写真を出す |
| 建設業 | 単なる登記上の本社・本店は、主たる営業所に当たらない |
| 労働者派遣事業 | 事業に使える面積がおおむね20㎡以上 |
| 有料職業紹介事業 | 個室やパーティションなどで、プライバシーを守って対応できる構造(代わりの方法あり) |
| 古物商 | 営業所ごとに、常勤して業務に従事できる管理者を置く |
宅地建物取引業では、国土交通省の資料が「事務所」を「商業登記簿等に登載されたもので、継続的に宅地建物取引業者の営業の拠点となる施設としての実体を有するもの」とし、建設業の許可事務ガイドラインも「単なる登記上の本社、本店等」は主たる営業所に当たらないとしています。古物商は、警察庁の解釈運用基準で、管理者は営業所に常勤して業務に従事できる状態でなければならないとされており、人のいない住所では管理者を置けません。
運営会社の側が、こうした業種の契約を断っていることもあります。バーチャルオフィスDBの調べでは、規約で契約できない業種を挙げている60社のうち、古物・転売を挙げているのが11社、人材派遣・職業紹介が7社でした。業種ごとの要件の詳しい内容は「バーチャルオフィスの会社の法人口座・融資・許認可」で説明しています。
法人口座の開設で、事業の内容の説明や郵便の受け取りを求められることがある
銀行は法人の口座を開くとき、犯罪収益移転防止法にもとづいて、会社の名称と本店の所在地、取引を行う目的、事業の内容、実質的支配者を確認します。名称と所在地、事業の内容は登記事項証明書や定款などの書類で、取引の目的と実質的支配者は申告で確認します。この確認事項に、本店がバーチャルオフィスかどうかは入っていません。
ただ、実際の申し込みでは、法律で決まった書類のほかに資料を求められることがあります。三菱UFJ銀行は、質問の結果によって、会社案内・見積書・注文書などの追加の書類を求めたり、口座の開設を断ったりすることがあるとしています。GMOあおぞらネット銀行は、バーチャルオフィスを登記の住所にしていても口座を開設できるとしたうえで、口座の開設後に登録した住所あてに送る転送不要の簡易書留を受け取れることを、必須の条件にしています。
口座を開く予定があるなら、運営会社が書留や転送不要郵便を受け取れるかを、契約の前に確認します。運営会社のなかには、銀行の紹介や、口座開設のための書類の発行をしている会社もあります(バーチャルオフィスDBの調べで、少なくとも10社)。
郵便を受け取れないもの、手元に届くまでの日数
バーチャルオフィスに届いた郵便は、運営会社が受け取り、決まった回数で転送するか、窓口での受け取りになります。週1回の転送なら、届いてから転送の日まで最大で約1週間待ち、そこに郵送の日数が加わります。月1回の転送なら、手元に来るまで最大で1か月ほどかかります。その店の窓口で受け取れると書いている店は、バーチャルオフィスDBに掲載されている711店のうち99店でした。期限のある書類(役所からの通知、取引先からの契約書や請求書)が届くなら、週1回以上の転送か、届いた郵便を写真で知らせるサービスのある会社を選びます。
受け取らない郵便を決めている運営会社もあります。郵便の決まりを掲載している121社のうち38社は、内容証明郵便や裁判所からの特別送達などを、受け取れない郵便に挙げていました。配達証明郵便を受け取らない郵便に挙げている会社も少なくとも3社あります。取引先との争いや役所の手続きで、こうした郵便が本店に届くことがあるため、受け取れる郵便の種類と、受け取れないときの扱い(差出人への返送、不在票の写真での通知など)を契約の前に確認します。
解約や撤退で住所を使えなくなると、本店移転の登記が必要になる
バーチャルオフィスを解約するときや、運営会社が店を閉じるときは、本店を別の住所に移す必要があります。解約の決まりを掲載している88社のうち、少なくとも29社は、解約の前に登記の住所を移すことを求めています。年払いの場合、少なくとも26社は、契約期間の途中で解約しても利用料を返金しないとしています。
本店を移したら、2週間以内に本店移転の登記をします(会社法第915条第1項、第916条)。登録免許税は、同じ法務局の管轄の中の移転なら3万円、管轄の外への移転なら旧所在地と新所在地の登記で3万円ずつ、合わせて6万円です。登記を怠ると、取締役などが100万円以下の過料の対象になります(会社法第976条)。費用と手続きの流れは「本店移転の登記費用」で説明しています。
来客・面接・商品の保管の場所は、別に用意する
バーチャルオフィスには働く場所がありません。打ち合わせや採用の面接は、会議室の時間貸しや外部の貸し会議室を使います。バーチャルオフィスDBの掲載例では、会議室の料金は1時間1,100円から4,500円ほどまで幅があり、使える店や会員の種類が限られている場合もあります。1時間4,500円の会議室を月に16時間使うと、月7万2,000円です。商品や書類を保管する場所もないため、在庫を持つ事業では倉庫を別に借ります。