起業にはいくら必要か
開業費用の中央値は600万円
日本政策金融公庫総合研究所の「2025年度新規開業実態調査」によると、開業費用の平均値は975万円、中央値は600万円でした。平均値は一部の高額な開業に引き上げられるため、よくある金額としては中央値のほうが実感に近い数字です。
| 開業費用 | 割合 |
|---|
| 250万円未満 | 20.1% |
| 250万〜500万円未満 | 21.7% |
| 500万〜1,000万円未満 | 29.7% |
| 1,000万〜2,000万円未満 | 18.5% |
| 2,000万円以上 | 10.0% |
500万円未満の開業が4割あまりを占めます。長期的には、開業費用は少なくなる傾向にあります。
集めた資金の7割近くは借り入れ
同じ調査で、開業時の資金調達額は平均1,219万円でした。内訳は次のとおりです。
| 調達先 | 平均額 | 割合 |
|---|
| 金融機関等からの借り入れ | 827万円 | 67.9% |
| 自己資金 | 279万円 | 22.9% |
| 配偶者・親・兄弟・親戚 | 53万円 | 4.3% |
| 友人・知人等 | 41万円 | 3.4% |
| その他 | 19万円 | 1.6% |
借り入れと自己資金で9割を占めます。ただし、この調査の対象は日本政策金融公庫から融資を受けた開業1年以内の企業のため、借り入れの割合は高めに出ます。出資を中心に集めるスタートアップは、この内訳とは違う形になります。
見積もりに入れておきたい費用
開業資金は、大きく設備資金と運転資金に分けて見積もります。
- 設備資金:オフィスや店舗の内装工事、機械・器具・パソコンなどの備品、車両
- 物件を借りる費用:敷金(保証金)、前払いの賃料、仲介手数料
- 運転資金:売上が入るまでの人件費、家賃、仕入れ、広告費
見落としやすいのが運転資金です。開業してすぐに売上が立つとは限らないため、売上がなくても数か月は払い続けられる額を見込んでおきます。物件を借りる費用は、あとで説明するように、オフィスの広さによって大きく変わります。
資金計画の例
必要な資金と、その集め方を並べて書き、両方の合計をそろえたものが資金計画です。3人でWeb制作の会社を始め、月額賃料30万円・敷金6か月分のオフィスを借りる場合を例にすると、次のようになります。
| 必要な資金 | 金額 |
|---|
| 敷金(6か月分) | 180万円 |
| 前払いの賃料・仲介手数料 | 63万円 |
| 内装・家具・パソコン | 157万円 |
| 運転資金(人件費・家賃など3か月分) | 300万円 |
| 合計 | 700万円 |
| 集め方 | 金額 |
|---|
| 自己資金 | 200万円 |
| 日本政策金融公庫の創業融資 | 400万円 |
| 家族からの借り入れ | 100万円 |
| 合計 | 700万円 |
この例では、敷金だけで必要な資金の4分の1を超えます。自己資金でまかなえない額をどこから集めるかを、次の方法から組み立てます。
起業の資金を集める方法
起業のときに使える主な方法を、返す必要があるか、会社の持ち分に影響するかで比べると、次のようになります。
| 方法 | 返す必要 | 会社の持ち分 | 特徴 |
|---|
| 自己資金 | なし | 影響なし | 使い道の制約がなく、融資の審査でも評価される |
| 家族・知人 | 借りれば返す | 出資なら影響あり | 頼みやすいが、条件は書面に残す |
| 日本政策金融公庫の創業融資 | 返す | 影響なし | 事業の実績がなくても申し込める |
| 自治体の制度融資 | 返す | 影響なし | 信用保証協会の保証付き。保証料の補助がある |
| 出資(エンジェル・VC) | なし | 影響あり | 大きな額を集められるが、経営に関わる人が増える |
| 補助金・助成金 | 原則なし | 影響なし | 後払いで、審査があり、使える経費が決まっている |
| クラウドファンディング | 型による | 型による | 購入型なら商品の予約販売を兼ねられる |
自己資金と、家族・知人からの資金
自己資金は、預貯金や退職金など、自分の手持ちのうち事業にかけられるお金です。返す必要がなく使い道も自由なうえ、日本政策金融公庫の創業者向けコラムでも、一般に自己資金は多いほうが金融機関から高い評価を得られやすいとされています。融資を受ける場合も、まず自己資金をどれだけ用意できるかが出発点になります。
家族や知人から資金を受ける場合は、借りるのか、出資してもらうのか、もらうのかをはっきりさせます。借りるなら金額・返す時期・利息を、出資なら株式の数を書面に残しておくと、あとの行き違いを防げます。もらう(贈与を受ける)場合は、1年間にもらった額の合計が110万円を超えると、超えた分に贈与税がかかります(暦年課税の場合)。
日本政策金融公庫の創業融資
創業時の借り入れで中心になるのが、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。
| 項目 | 内容 |
|---|
| 使える人 | 新たに事業を始める人、または事業開始後おおむね7年以内の人 |
| 融資限度額 | 7,200万円 |
| 返済期間 | 設備資金20年以内、運転資金10年以内(どちらも据置期間5年以内) |
| 担保・保証人 | 希望を聞いたうえで相談(経営者保証を免除する特例制度あり) |
事業を始める前でも申し込めるため、開業に必要な資金を開業前にそろえられます。女性、35歳未満または55歳以上の人、市区町村の創業支援を受けて証明書を取得した人などは、低い利率(特別利率)の対象になります。申し込むときは創業計画書を出し、事業計画の内容を確認されます。
自治体の制度融資と信用保証協会の保証
制度融資は、都道府県や市区町村、金融機関、信用保証協会が連携して提供する融資です。信用保証協会が保証をつけて創業者の信用を補うため、実績のない創業者でも銀行や信用金庫から借りやすくなります。東京都のように、自治体が保証料の一部を補助する制度もあります。
たとえば東京都の制度融資「創業」は、融資限度額が3,500万円、返済期間が設備資金10年以内、運転資金7年以内です。区市町村の認定特定創業支援等事業による支援を受けて証明を受けると、融資利率が0.4%優遇されます。
信用保証協会には、創業向けの保証として次の3つがあり、あわせて使う場合の保証限度額は合計3,500万円です。
- 創業関連保証:これから創業する個人や、創業から5年未満の個人・法人が使える
- 再挑戦支援保証:過去に事業をやめた人の再チャレンジを支える
- スタートアップ創出促進保証:保証料率を0.2%上乗せすることで、経営者が会社の連帯保証人にならずに済む(法人が対象)
創業関連保証は、事業を営んでいない個人の場合、1か月以内に事業を始める(法人なら2か月以内に設立する)具体的な計画があることが条件です。市区町村の認定特定創業支援等事業による支援を受けて創業する場合は、この期間が6か月以内に延びます。
日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」(表では公庫)と、東京都の制度融資「創業」を比べると、次のとおりです。
| 公庫 | 東京都の制度融資 |
|---|
| 借りる先 | 公庫 | 銀行・信用金庫 |
| 限度額 | 7,200万円 | 3,500万円 |
| 返済・設備 | 20年以内 | 10年以内 |
| 返済・運転 | 10年以内 | 7年以内 |
| 据置期間 | 5年以内 | 1年以内 |
| 証明書あり | 特別利率A | 0.4%優遇 |
返済・設備と返済・運転は、設備資金と運転資金の返済期間です。証明書ありは、市区町村の創業支援の証明書があるときの利率です。
限度額と返済期間は公庫のほうが大きく長い一方、制度融資は信用保証協会の保証付きで、地元の銀行や信用金庫と取引を始めるきっかけになります。開業後に追加の借り入れをするときに、取引のある金融機関があると相談しやすくなります。
出資(エンジェル投資家・ベンチャーキャピタル)
出資は、会社の株式と引き換えにお金を入れてもらう方法です。返す必要はありませんが、出資した人は株主になり、会社の決め事に関わります。
主な出資者は、家族や知人、スタートアップに出資する個人(エンジェル投資家)、投資家から集めた資金で出資するベンチャーキャピタル(VC)です。VCは、どれだけ成長できるか、株式上場ができるかという観点で出資先を見ます。飲食店や地域のサービス業のように、着実に利益を積み上げる事業では、出資より融資のほうが合うことが多くなります。
補助金・助成金
補助金や助成金は、国や自治体が政策に沿った事業を支援するために出すお金で、原則として返す必要がありません。創業期に使える代表的なものは次のとおりです。
| 制度 | 上限・補助率 | 主な条件 |
|---|
| 東京都「創業助成事業」 | 上限400万円(下限100万円)、経費の2/3以内 | 都内で創業予定、または創業5年未満などで、一定の要件を満たす人。事務所の賃借料や人件費も対象 |
| 小規模事業者持続化補助金〈創業型〉 | 上限200万円(インボイス特例で50万円上乗せ)、経費の2/3 | 特定創業支援等事業の支援を受けた日と開業日が、締切前1年以内。商工会・商工会議所の事業支援計画書が必要 |
どちらも審査があり、申請すれば必ず受け取れるわけではありません。また、使える経費や期間が決まっています。
クラウドファンディング
インターネットで大勢の人からお金を集める方法です。リターン(見返り)の内容によって、商品やサービスを届ける購入型、見返りを求めない寄付型、融資や投資の形をとる金融型に分かれます。購入型は、発売前の商品の予約販売やテストマーケティングを兼ねられるのが特徴です。