居抜きで入る側が確かめること
次の借主として居抜きの物件に入る場合は、初期の工事費を抑えられる一方で、次の点を確かめておきます。
- 設備が動くか:空調、照明、厨房機器、給排水、電気の容量などを、引渡しの前に実際に動かして確かめる
- リースの設備:残っている設備のうち、リース会社の所有のものはどれか。リース契約を引き継ぐ場合の残りの期間と月額
- 退去時の原状回復:前の借主が付けた内装まで、自分が退去するときに撤去する義務を負うのか
- 内装の変更:引き継いだ内装を変える場合に、貸主の承諾がどこまで必要か
- 敷金:新しい契約で預ける敷金の額と、償却などの条件
居抜きで入る物件でも、敷金は新しい契約で預け直すのが原則です。初期の工事費を抑えられた分と、預ける敷金の額をあわせて、入居の初期費用を考えます。
造作譲渡の価格の考え方
造作の価格に決まった相場はなく、売る側と買う側の交渉で決まります。価格を左右するのは、主に次の点です。
- 設備の年数と状態:厨房機器や空調は、年数がたつほど価値が下がる
- 次の借主の業態との合い方:同じ業態であれば、そのまま使える設備が多く、価値が高くなる
- 撤去にかかる費用:造作が売れなければ、売る側は撤去の工事費を負担することになる。この工事費を下回る価格でも、売る側にとっては得になることがある
- 物件そのものの人気:立地のよい物件は次の借主が見つかりやすく、価格の交渉でも有利になる
売る側にとっては、「造作の代金」と「払わずに済む撤去の工事費」の合計で考えるのが現実的です。価格にこだわりすぎて次の借主が見つからないうちに解約の期日が来ると、撤去の工事をしたうえで造作も処分することになります。
税金と会計の扱い
消費税
造作の譲渡は、事業者が行う資産の譲渡として、消費税の課税対象です(消費税法第4条)。契約では、価格が税込か税別かを明記します。
売る側の会計
売る側は、帳簿に残っている内装や設備の価額(取得価額から減価償却を差し引いた額)と、売った価格との差額を、売却の損益として計上します。帳簿の価額より安く売れば売却損、高く売れば売却益になります。撤去せずに済んだ工事費は、費用として発生しません。
買う側の会計
買う側は、買い取った造作を、中古の資産として計上し、減価償却します。中古の資産の耐用年数は、法定耐用年数ではなく、使える期間を見積もった年数によることができ、見積もりが難しい場合は簡便な計算方法も使えます(国税庁 No.5404)。
うまくいかないときの備え
居抜き退去は、次の借主、貸主の承諾、価格の三つがそろって初めて成り立ちます。どれかが欠けたときに困らないよう、次の点を押さえておきます。
- 解約の予告期間から逆算する:予告期間が6か月なら、その間に次の借主と貸主の承諾をそろえる必要がある。見つからなかった場合に、撤去の工事に間に合うかも見ておく
- 工事の見積もりを取っておく:居抜きが成り立たなかったときの原状回復の費用を、早めに把握しておく
- 撤去の費用と敷金の関係を知っておく:原状回復の費用は敷金から差し引かれるため、戻ってくる敷金が少なくなる前提で、移転先の資金計画を立てる
退去する店舗やオフィスの敷金が戻るのは、明け渡したあとです。移転先の敷金は契約時に必要なので、その間は両方の敷金を同時に負担することになります。原状回復の費用が差し引かれた精算の見方や、返ってこないときの対応は「敷金が返ってこない・少ないときの対処」で整理しています。
移転先の敷金を減らす
居抜き退去で戻る敷金を増やすことと並んで、移転先で預ける敷金を減らすことも、移転の資金の負担を軽くします。当社の「敷金半額くん」は、新しく借りるオフィスや店舗の敷金を、半額から最大0円まで減らすサービスです。減らした分の敷金の代わりに、当社が貸主に保証を提供します。移転の前に、今の物件の敷金を入居したまま取り戻す「敷金返還くん」もあります。どちらも、利用には当社の審査と貸主の承諾が必要で、当社への保証料がかかります。
よくある質問
貸主の承諾なしに造作譲渡はできますか?
造作を売ること自体は、前の借主と次の借主の売買ですが、次の借主が入居するには貸主との新しい契約が必要で、原状回復をしないで明け渡すにも貸主の合意が必要です。実際には、貸主の承諾がなければ居抜き退去は成り立ちません。
造作譲渡の代金は、いつ受け取れますか?
契約で決めます。貸主の承諾を得たあと、造作を引き渡すときに受け取る形にしておくと、承諾が得られないまま代金だけが動くことを避けられます。先に受け取る場合は、承諾が得られなかったときに代金を返す条件を決めておきます。
造作買取請求権で、貸主に買い取ってもらえませんか?
借地借家法の造作買取請求権は、特約で使わないと定めることができます(第33条・第37条)。事業用の契約書で「造作買取請求権を行使しない」と定めていれば、貸主に買い取りを求めることはできません。
リースで入れている設備も一緒に売れますか?
売れません。リースの設備はリース会社の所有です。次の借主にリース契約を引き継いでもらうか、解約して撤去するかを、リース会社と相談します。
居抜きで入った会社が退去するときは、どこまで戻せばよいですか?
新しい契約の原状回復の条項によります。前の借主が付けた内装まで撤去する義務を引き継ぐ契約もあるため、居抜きで入るときは、退去時の原状回復の範囲を必ず確かめます。
まとめ
- 造作譲渡は、退去する借主が内装や設備を次の借主に売り渡すこと。居抜き退去は、内装を残したまま退去すること
- スケルトン返しに比べて、原状回復の工事費がかからず、戻る敷金が増える。造作が売れれば代金も入る
- 成り立つには、次の借主、貸主の承諾、価格の三つがそろう必要がある。敷金は次の借主に引き継がれず、前の借主に返されるのが原則
- 契約では、譲渡する造作の一覧、リースの設備、価格、引渡し日、状態と責任、承諾が得られないときの扱い、原状回復の義務を決める
- 居抜きが成り立たないときに備えて工事の見積もりを取り、移転先の敷金を減らす方法もあわせて検討する
出典:借地借家法第33条・第37条、民法第562条・第572条・第612条・第621条・第622条の2、消費税法第4条、国税庁「No.5404 中古資産の耐用年数」。