敷金・保証金

敷金償却と原状回復の費用|二重取りか、無効になる場合、住宅と事業用の違い

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敷金償却と原状回復の費用|二重取りか、無効になる場合、住宅と事業用の違い

退去のとき、敷金(保証金)から「償却」と「原状回復の費用」の両方を差し引かれると、同じ傷みに二重にお金を取られているのではないか、償却そのものが違法ではないか、と感じることがあります。償却は契約で決めた「返さない額」で、原状回復の費用は損傷を元に戻す費用です。償却の定めは、それだけで無効になるものではありません。また、償却と、借主がつけた損傷の補修費用が両方差し引かれても、償却をその補修にあてると決めていなければ、二重取りにはあたりません。ただし、住宅の契約では、最高裁が、別の合意などがない限り、敷引き(償却)は通常の使用による損耗の補修費用を借主に負担させる趣旨を含むと判断しています。当社の整理では、その場合に通常の使用による損耗の補修費用を原状回復の費用としても差し引けば、同じものに二重に払っている疑いがあります。

この記事では、償却と原状回復の費用の違い、二重取りにあたるかどうかの考え方、最高裁平成23年3月24日判決と平成17年12月16日判決の内容、住宅と事業用(オフィス・店舗・倉庫)の違い、精算書と契約書の確かめ方を、民法・消費者契約法、最高裁の判決と、国土交通省のガイドラインが紹介する裁判例をもとに整理します。

償却と原状回復の費用の違い

項目償却(敷引き)原状回復の費用
何のお金か敷金・保証金のうち、契約で返さないと決めた額借主が元に戻すべき損傷を直す費用
決まり方契約で、金額・賃料の月数・保証金の割合・経過年数ごとの額などで決める実際の工事の内容と金額で決まる
損傷がなくても差し引かれるか差し引かれる民法の原則では差し引かれない(通常損耗も借主の負担とする特約があれば、差し引かれることがある)
法律の定め民法に定めはない。住宅では、高額に過ぎれば消費者契約法第10条により無効になりうる損傷を原状に戻す義務。通常の使用による損耗と経年変化は除く(民法第621条)

民法は、借主が元に戻す義務を負う損傷から、通常の使用によって生じた損耗と、年数がたって生じた変化(経年変化)を除き、借主の責任ではない理由で生じた損傷も除いています(民法第621条)。最高裁も、借主は、特約のない限り、通常の使用による損耗について原状回復の義務を負わないとしています(最高裁平成23年3月24日判決)。敷金は、賃貸借が終わって物件を返したあと、未払いの賃料など借主の金銭の債務を差し引いた残りが返ってくるお金です(民法第622条の2第1項)。償却は、この民法の差し引きとは別に、契約で決める「返さない額」です。

なお、2020年4月1日より前に結んだ賃貸借には、改正前の民法が使われます(民法の一部を改正する法律 附則第34条第1項)。ただ、借主が特約のない限り通常の使用による損耗の原状回復の義務を負わないことは、改正前に結ばれた契約についての最高裁の判決(平成23年3月24日)でも同じです。

償却と原状回復の費用の違い。償却は契約で返さないと決めた額で、金額・月数・割合などを契約で決め、損傷がなくても差し引かれる。民法に定めはなく、住宅では高額に過ぎれば消費者契約法第10条で無効になりうる。原状回復の費用は損傷を直す費用で、通常の使用による損耗と経年変化は除かれ(民法第621条)、民法の原則では損傷がなければ差し引かれないが、通常損耗も借主の負担とする特約があれば差し引かれることがある。住宅の敷引きは、別の合意などがない限り、通常損耗の補修費用を借主に負担させる趣旨を含むと最高裁が判断している(平成23年3月24日)

償却と礼金の違い

償却も礼金も、返ってこないお金です。主な違いは払い方で、礼金は契約のときに払い、償却は預けた敷金・保証金から差し引かれます。また、最高裁は、住宅の敷引きを、別の合意などがない限り通常損耗の補修費用にあてる趣旨を含むものとし、礼金は「礼金等他の一時金」として、敷引金の額が高額に過ぎるかを判断する材料のひとつにしています(平成23年3月24日判決)。

項目償却礼金
払い方預けた敷金・保証金から差し引かれる契約のときに払う
返ってくるか返ってこない返ってこない
消費税(事業用の建物)課税の対象課税の対象
消費税(住宅)非課税非課税

(消費税は、国税庁 タックスアンサーNo.6225の「保証金、権利金、敷金または更新料などのうち、返還しないもの」の扱いによる)

会社の勘定科目と仕訳は「敷金・礼金の勘定科目」で説明しています。

通常の使用による損耗とは(国土交通省のガイドライン)

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」は、民間賃貸住宅を対象に、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義しています。次の入居者を確保するためのリフォームなど、経年変化と通常の使用による損耗の修繕は、貸主が負担するものとしています。

ガイドラインの修繕分担表から、例を挙げます。

貸主の負担となるもの(例)借主の負担となるもの(例)
家具の設置による床・カーペットのへこみ、設置跡引越作業などで生じた引っかきキズ
日照などの自然現象によるクロスの変色タバコなどのヤニ・臭い
壁などの画鋲・ピンの穴(下地ボードの張替えが不要な程度)重量物をかけるためのくぎ穴・ネジ穴(下地ボードの張替えが必要な程度)
テレビ・冷蔵庫などの後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)借主が天井に直接つけた照明器具の跡

(住宅のガイドラインの例です。オフィスや店舗では、契約書の原状回復の条項と民法第621条で判断します)

両方差し引かれるのは二重取りか

償却は、借主がつけた損傷の原状回復の費用とは別の取り決めです。ただし、住宅の敷引きは、別の合意などがない限り、通常の使用による損耗の補修費用を定額で借主に負担させる趣旨を含むと判断されています(最高裁平成23年3月24日判決)。契約で償却を決め、別に借主がつけた損傷があれば、両方が差し引かれることはあります。二重取りになるかどうかは、償却が何のためのお金と決められているかと、原状回復として何を直したかの組み合わせで考えます。

償却の趣旨原状回復として差し引かれたもの考え方
通常の使用による損耗の補修にあてると契約に書いてある通常の使用による損耗の補修(壁紙の日焼け、床の通常の擦り減りなど)同じものに二重に払っている疑いがある
通常の使用による損耗の補修にあてると契約に書いてある借主がつけた傷や汚れの補修別のものなので、両方差し引かれうる
趣旨が書かれていない借主がつけた傷や汚れの補修別のものなので、両方差し引かれうる
趣旨が書かれていない通常の使用による損耗の補修住宅では、別の合意などがない限り敷引きは通常損耗の補修の趣旨を含むとされる(平成23年3月24日判決)ため、1行目と同じく二重の疑いがある。事業用では、通常損耗を借主の負担とする特約があるかを確かめる(民法第621条)

(当社の整理です。個別の契約の判断は、契約書の文言によります)

住宅の敷引きは、契約書に趣旨が書かれていなくても、当事者の間で別の合意などがない限り、通常損耗の補修費用を借主に負担させる趣旨を含むと判断されています(最高裁平成23年3月24日判決)。住宅で償却(敷引き)があるのに、通常損耗の補修を原状回復の費用として別に差し引かれていたら、とくに注意して確かめます。

最高裁平成23年3月24日判決(住宅の敷引き)

最高裁は、居住用のマンションの賃貸借で、保証金から経過年数に応じた額を差し引く敷引特約が、消費者契約法第10条により無効になるかを判断しました(最高裁平成23年3月24日判決、平成21年(受)第1679号)。

事案の概要

項目内容
物件京都市のマンションの一室(専有面積約65.5㎡)
賃料月9万6,000円
保証金40万円
敷引金経過年数に応じて18万円〜34万円(この事案では21万円)
契約書の定め通常損耗等は敷引金で賄い、借主は原状回復を要しない
ほかの一時金更新のとき賃料1か月分の更新料。礼金などはなし

判決の内容

判決は、次のように判断しています。

  • 居住用建物の賃貸借契約に付けられた敷引特約は、当事者の間でその趣旨について別の合意などがない限り、通常損耗等の補修費用を借主に負担させる趣旨を含む
  • 借主は、特約のない限り、通常損耗等について原状回復の義務を負わないので、この特約は借主の義務を重くするものにあたる
  • 借主は、賃料に加えて敷引金でも補修費用を負担させるのは二重の負担だと主張したが、判決は、補修費用にあてる金員を敷引金として授受する合意があれば、補修費用を含まない賃料が合意されているとみるのが相当で、敷引特約で補修費用を二重に負担するということはできないとした
  • ただし、敷引金の額が、通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金などほかの一時金の有無と額などに照らして高額に過ぎる場合は、賃料が近くの同じような建物の賃料相場より大幅に安いなどの特段の事情がない限り、消費者契約法第10条により無効になる
  • この事案では、敷引金は通常想定される補修費用を大きく超えるものとまではいえず、賃料月額の2倍弱〜3.5倍強にとどまり、更新料のほかに礼金などの一時金もないため、高額に過ぎるとはいえず、無効ではない

判決が「二重の負担」について判断したのは賃料と敷引金の関係で、敷引金と原状回復の費用の両方を差し引いた事案ではありません。この事案で差し引かれたのは敷引金の21万円で、残りの19万円は返還されています。そのうえで当社の整理として、敷引きで通常損耗の補修費用をまかなう契約なのに、退去のときに通常損耗の補修費用を原状回復の費用として別に差し引いていれば、同じものに二重に払っている疑いがあります。

裁判例:敷引きは有効、補修費は通常損耗を除いて減額(神戸地裁平成14年6月14日判決)

国土交通省のガイドラインは、敷引きと補修費の両方を差し引かれ、襖・壁・床の張替えや畳表替えなどが争われた事例として、神戸地裁平成14年6月14日判決を紹介しています(ガイドライン 事例16)。

項目金額
敷金70万円
敷引金28万円
貸主が別に差し引いた補修費(襖・壁・床の張替え、ハウスクリーニングなど)26万2,993円
裁判所が認めた補修費7万2,345円
追加で返還を命じられた額19万648円

判決は、敷引きは賃貸借契約成立の謝礼、賃料の実質的な先払い、建物の自然損耗の修繕に必要な費用などさまざまな性質を一体として、一定額を貸主に帰属させる合意で、金額が著しく高額で暴利行為にあたるなどの特段の事由がない限り有効としました。この事案の敷引きも、自然損耗の修繕に必要な費用にあてるものと認めています。そのうえで、敷金から差し引ける補修費は、通常の使用に伴う自然損耗を除いた、借主の責任による毀損の分に限られるとして、7万2,345円だけを認めました。敷引きが有効でも、通常損耗の補修費を別に差し引くことまでは認められなかった例です。

最高裁平成17年12月16日判決(通常損耗の特約)

最高裁は、借りた建物の通常の使用による損耗について借主が原状回復の義務を負うには、借主が補修費用を負担する損耗の範囲が契約書に具体的に書かれているか、貸主が口頭で説明し、借主が明確に認識して合意したと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要だと判断しています(最高裁平成17年12月16日判決、平成16年(受)第1573号)。判決は建物の賃貸借一般について理由を述べており、事案は住宅(特定優良賃貸住宅)の賃貸借です(ガイドライン 事例24)。

償却とは別に、原状回復の費用として通常損耗の補修を差し引かれた場合は、その負担を定めた特約が契約書に具体的に書かれているかを確かめます。

住宅と事業用の違い

消費者契約法は、「消費者」を個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く)と定め、消費者と事業者の間の契約を「消費者契約」としています(消費者契約法第2条)。会社がオフィスや店舗、倉庫を借りる契約や、個人事業主が事業のために借りる契約は、消費者契約にあたりません。

項目住宅(個人が住むために借りる)事業用(オフィス・店舗・倉庫)
消費者契約法当てはまる(貸主が事業者の場合)当てはまらない(第2条)
高すぎる償却(敷引き)高額に過ぎれば無効になりうる(平成23年3月24日判決)消費者契約法による無効の主張はできない。公序良俗に反する契約は無効(民法第90条)
通常損耗の特約明確な合意が必要(平成17年12月16日判決)同判決は建物の賃貸借一般について理由を述べている(事案は住宅)。借主が負担する範囲が契約書に具体的に書かれているかを確かめる

国土交通省のガイドラインは、オフィスビルの賃貸借で、借主には原状回復の条項にもとづき、通常の使用による損耗・汚損も除去して借りたときの状態に戻して返す義務があるとした、東京高裁平成12年12月27日判決も紹介しています(ガイドライン 事例15の脚注)。この事案では、電気設備の撤去、空調設備のオーバーホール工事、塗装工事、内装工事、クリーニング工事などが借主の負担とされました。事業用の契約では、通常損耗も借主の負担とする条項があれば、それが基準になりえます。

事業用の契約では、償却の月数や割合は、原則として契約で合意した内容が基準になります。償却が何のためのお金か(通常損耗の補修にあてるのか)も、契約書に書かれていなければわかりません。二重の負担を避けるために、署名する前に、償却の趣旨と原状回復の範囲を書面で確かめます。

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契約書の条項の例と読み方

条項の書き方の例読み方
「保証金のうち賃料の2か月分を償却する」償却の趣旨が書かれていない。住宅なら、別の合意などがない限り通常損耗の補修を含む趣旨と判断されうる(平成23年3月24日判決)。事業用では貸主に趣旨を確かめる
「償却金は通常損耗の補修にあて、借主は通常損耗の原状回復を要しない」通常損耗は償却でまかなう。精算で通常損耗の補修を差し引かれたら、二重に払っていないかを確かめる
「借主は、償却とは別に、通常損耗を含めて原状に復する」償却と、通常損耗を含む原状回復の両方を負担すると読める書き方。ただし、通常損耗の範囲が具体的に書かれていなければ、特約が明確に合意されたとは認められないことがある(平成17年12月16日判決)。住宅では、通常損耗を借主の負担とする特約を消費者契約法第10条により無効とした裁判例もある(ガイドライン 事例27・事例30)
「解約のときに保証金の20%を償却する」割合で決める償却。預ける保証金が大きいほど、返ってこない額も大きい

(条項は書き方の例です)

精算書と契約書の確かめ方

退去のときの精算書は、次の順番で確かめます。

  1. 契約書の償却の条項を読む:償却の額、差し引く時期、何にあてるお金かが書かれているか
  2. 原状回復の条項を読む:借主が戻す範囲、通常損耗の扱い、特約の有無
  3. 精算書の原状回復の項目を分ける:借主がつけた傷・汚れの補修か、通常の使用による損耗の補修か
  4. 入居時の記録と照らす:入居したときからあった傷が含まれていないか
  5. 重なりを確かめる:償却の趣旨が通常損耗の補修なら、通常損耗の補修が原状回復の費用にも入っていないか

精算の例

保証金240万円、償却は賃料の2か月分(月額賃料30万円×2=60万円)、原状回復の費用として80万円を差し引かれた例です(金額は計算のための例です)。

精算書の項目金額確かめること
預けた保証金240万円
償却(賃料2か月分)−60万円契約書の償却の条項と一致するか
床のタイルカーペットの張り替え(通常の擦り減り)−30万円通常損耗の補修。償却の趣旨と重なっていないか、特約があるか
壁の穴(家具の固定)の補修−20万円借主がつけた損傷か
間仕切りの撤去−30万円借主が設置したものか
返ってくる額100万円

この例で、契約書に「償却分は通常損耗の補修にあてる」と書いてあれば、床の通常の擦り減りの張り替え30万円は、償却と重なっている疑いがあります。その場合は、根拠を書面で尋ね、差し引きの見直しを求めます。

書面で尋ねるときの文例

精算書の「床のタイルカーペットの張り替え 30万円」について、賃貸借契約書第○条では、償却金を通常の使用による損耗の補修にあてると定めています。この張り替えが通常の使用による損耗の補修にあたる場合、償却金と重ねて差し引かれていると考えます。この項目を差し引いた根拠(見積もりの内訳と写真)と、通常の使用による損耗にあたらないとお考えの理由を、書面でご説明いただけますでしょうか。

(文例です。条文の番号と項目は、実際の契約書と精算書に合わせます)

立ち会いで確かめること

  • 傷と汚れを一緒に見る:貸主と一緒に、差し引きの対象になる箇所を確かめ、写真を撮る
  • 原因を分けて記録する:借主がつけた傷か、通常の使用による擦り減り・日焼けか
  • 入居時の写真と並べる:入居したときからあった傷かどうか
  • 署名は内訳を見てから:その場で精算書への署名を求められても、内訳と根拠を確かめてから署名する

精算の例。保証金240万円から、償却60万円と原状回復の費用80万円(通常損耗の床の張り替え30万円、壁の穴の補修20万円、間仕切りの撤去30万円)を差し引いて、返ってくるのは100万円。償却が通常損耗の補修にあてる趣旨なら、通常損耗の床の張り替え30万円は償却と重なっている疑いがある。金額は計算のための例

契約の前にできること

確かめること・交渉すること理由
償却が何のためのお金かを、契約書に書いてもらう原状回復との重なりを判断できる
償却で通常損耗の補修をまかなうなら、通常損耗は原状回復の対象外と書いてもらう精算で二重の負担を求められたときに断る根拠になる
原状回復の範囲を具体的に書いてもらう精算のときの食い違いを減らせる
入居時の状態を写真と図面で残し、契約書に添える入居前からの傷かどうかを示す証拠になりうる
償却の月数・割合を下げる交渉をする返ってこない額が減る

償却の書き方・計算と交渉の進め方は「敷金償却(保証金償却)とは」、敷引き・償却・解約引きの呼び方と事業用の保証金での扱いは「敷引きとは」で説明しています。

納得できないときの進め方

精算書に納得できないときは、署名する前に、差し引かれた項目ごとに理由と根拠(見積もり、写真)を書面で尋ねます。話し合いでまとまらなければ、期限を決めて書面で返還を求め、民事調停や、60万円以下の金銭の支払いを求める少額訴訟(民事訴訟法第368条第1項)などの手続きを使います。

敷金の返還を求める権利は、権利を行使できることを知った時から5年間、または権利を行使できる時から10年間行使しないと、時効によって消滅します(民法第166条第1項)。2020年4月1日の改正民法の施行より前に結んだ契約では、時効の期間は改正前の例によります(民法の一部を改正する法律 附則第10条)。進め方は「敷金が返ってこない・少ないときの対処」で説明しています。

返ってこないお金を、最初から小さくする

償却を保証金の何割と決める契約では、預ける保証金が大きいほど、返ってこない額も大きくなります。当社の「敷金半額くん」は、新しく借りる物件の敷金・保証金を、半額から最大0円まで減らすサービスで、減らした分の代わりに当社が貸主に保証を提供します(減らしたあとの償却の額は、貸主との合意によります)。すでに預けている敷金は、「敷金返還くん」で、半額から最大全額を入居したまま現金で取り戻せます。どちらも、利用には当社の審査と貸主の承諾が必要で、当社への保証料がかかります。

よくある質問

敷金償却は違法ですか?

償却(敷引き)の定めは、それだけで無効になるものではありません。最高裁も、住宅の敷引特約について、補修費用にあてる金額をあらかじめ一定額にしておくことは、補修の要否や費用をめぐる紛争を防ぐ観点からあながち不合理とはいえず、直ちに借主の利益を一方的に害するものとはいえないとしています(平成23年3月24日判決)。ただし、住宅の契約では、敷引き(償却)の額が高額に過ぎる場合に、消費者契約法第10条により無効になることがあります。事業用の契約には消費者契約法は当てはまりませんが、公序良俗に反する契約は無効です(民法第90条)。

償却と原状回復の費用を両方取られるのは二重取りですか?

償却と、借主がつけた損傷の補修費用が両方差し引かれても、償却をその補修にあてると決めていなければ、二重取りにはあたりません。ただし、償却が通常の使用による損耗の補修にあてる趣旨の場合(住宅の敷引きは、別の合意などがない限りこの趣旨を含むとされます)に、通常損耗の補修費用を原状回復の費用としても差し引いていれば、二重に払っている疑いがあります。

全額償却という契約は有効ですか?

住宅の契約では、償却の額が、通常損耗の補修費用として通常想定される額、賃料、礼金などほかの一時金に照らして高額に過ぎる場合は、消費者契約法第10条により無効になりえます(平成23年3月24日判決)。国土交通省のガイドラインは、保証金50万円のうち40万円を差し引く解約引特約を同条により無効とした裁判例も紹介しています(京都簡裁平成20年8月27日判決、ガイドライン 事例29。平成23年判決より前の裁判例です)。事業用の契約には消費者契約法は当てはまらず、合意した内容が基準になりますが、公序良俗に反する契約は無効です(民法第90条)。

なお、神戸地裁平成14年6月14日判決は、建物の賃貸借の敷引きについて一般に、金額が著しく高額で暴利行為にあたるなどの特段の事由がない限り有効としています(ガイドライン 事例16)。

敷引きと償却は同じものですか?

最高裁は、「敷金の性質を有する本件保証金のうち一定額を控除し、これを賃貸人が取得する旨のいわゆる敷引特約」と述べています(平成23年3月24日判決)。契約書で「償却」と呼んでいても、敷金の性質を持つ保証金(名目を問わず、賃料などの債務の担保として預けるお金。民法第622条の2第1項)から一定額を差し引いて貸主が取得する定めなら、同じ形の定めです。呼び方にかかわらず、返さない額と、その趣旨を契約書で確かめます。

敷金から差し引かれた原状回復の費用に、消費税はかかりますか?

課税の対象になります。国税庁は、貸主が借主に代わって原状回復の工事をすることは貸主から借主への役務の提供にあたり、保証金から差し引く工事の費用相当額は課税の対象になるとしています(質疑応答事例「建物賃貸借に係る保証金から差し引く原状回復工事費用」)。

償却の分にも消費税はかかりますか?

事業用の建物では、敷金・保証金のうち返還しない部分は、権利の設定の対価として消費税の課税の対象になります。住宅の賃貸借に伴う返還しない部分は非課税です(国税庁 タックスアンサーNo.6225)。

償却の月数は交渉できますか?

償却は契約で決める条件なので、契約の前なら交渉の余地がある場合があります。月数や割合だけでなく、償却が何のためのお金か、通常損耗の原状回復とどう分けるかも、あわせて確かめます。

個人事業主がオフィスを借りる場合は、住宅と同じ扱いですか?

事業のために借りる契約なので、消費者契約にはあたりません(消費者契約法第2条)。事業用の契約として、契約書の条項が基準になります。

通常損耗の補修は、誰が負担しますか?

民法の原則では、通常の使用による損耗と経年変化は借主が元に戻す範囲に入りません(民法第621条)。借主に負担させる特約には、負担する範囲が契約書に具体的に書かれているなど、明確な合意が必要です(最高裁平成17年12月16日判決)。

まとめ

  • 償却は契約で決めた返さない額、原状回復の費用は損傷を元に戻す費用
  • 償却の定めは、それだけで無効になるものではない
  • 償却と借主がつけた損傷の補修費用の両方が差し引かれても、償却をその補修にあてると決めていなければ、二重取りにはあたらない
  • 住宅の敷引きは、別の合意などがない限り、通常損耗の補修費用を負担させる趣旨を含むと最高裁が判断している(平成23年3月24日判決)
  • 償却が通常損耗の補修にあてる趣旨なら、通常損耗の補修を原状回復で別に取られていないかを確かめる
  • 敷引きが有効でも、通常損耗の補修費を別に差し引くことまでは認められなかった裁判例がある(神戸地裁平成14年6月14日判決)
  • 住宅で高額に過ぎる敷引きは、消費者契約法第10条により無効になりうる
  • 事業用の契約には消費者契約法が当てはまらず、合意した内容が基準になる(公序良俗に反すれば無効)
  • 契約の前に、償却の趣旨と原状回復の範囲を契約書に具体的に書いてもらう
  • 償却を保証金の割合で決める契約では、預ける保証金を減らすと、償却も小さくなることがある

出典:最高裁判所 平成23年3月24日判決(平成21年(受)第1679号)、平成17年12月16日判決(平成16年(受)第1573号)、民法第90条・第166条・第621条・第622条の2、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則第10条・第34条、法務省「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」、消費者契約法第2条・第10条、民事訴訟法第368条、国税庁 質疑応答事例「建物賃貸借に係る保証金から差し引く原状回復工事費用」、国税庁 タックスアンサー「No.6225 地代、家賃や権利金、敷金など」、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(事例15の脚注の東京高裁平成12年12月27日判決、事例16の神戸地裁平成14年6月14日判決、事例24、事例27、事例29、事例30を含む)。

Tags#敷金・保証金
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