敷金・保証金

敷金の会計処理|償却・勘定科目・仕訳・消費税を国税庁の規定で整理

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敷金の会計処理|償却・勘定科目・仕訳・消費税を国税庁の規定で整理

オフィスや店舗を借りるときに預ける敷金は、契約書に「償却」や「解約時に○ヶ月分を差し引く」と書かれていることがあります。この差し引かれる部分は退去しても戻ってきません。戻らないと決まった時点で、それは預け金ではなく費用になり、消費税の扱いも変わります。ところが実務では、預けた全額を「差入保証金」に計上したまま何年も動かさず、退去のときになって処理に困る例が少なくありません。

この記事では、敷金の会計処理を償却・勘定科目・仕訳・消費税の順に整理します。根拠は国税庁のタックスアンサーと法人税法の規定にあたり、判断が分かれやすい箇所は条文と通達の番号まで示しました。2027年4月から強制適用される新リース会計基準との関係にも触れます。

敷金の償却とは何か

敷金500万円のうち400万円は差入保証金(資産・不課税)、100万円は繰延資産(費用・課税)に分かれる

償却は「返ってこないと決まった部分」を指す

敷金の償却とは、預けた敷金のうち退去時に返還されない部分のことです。契約書には「敷金のうち賃料2ヶ月分を償却する」「解約時に敷金の20%を償却とする」といった形で書かれます。原状回復費用を精算した結果として戻らない金額とは性質が違い、実際に工事費がいくらかかったかに関係なく、契約で決めた分が最初から差し引かれます。

紛らわしいのは、同じ意味の言葉が地域や業界で違う呼ばれ方をすることです。関西では「敷引き」と呼ばれ、契約書にも敷引と記載されます。ほかに「解約引き」「保証金償却」という書き方もあります。名称が違っても、退去時に無条件で差し引かれるという点は同じで、会計処理も同じ考え方で処理します。契約書を読むときは「償却」という単語だけを探すのではなく、返還されない金額の定めがあるかどうかを見てください。

償却が発生する時期は契約によって分かれる

償却がいつ発生するかは契約次第です。多いのは退去時にまとめて差し引く形ですが、契約から一定期間が経過した時点で償却する定めもあります。たとえば「契約後2年を経過した時点で敷金の10%を償却する」と書かれていれば、入居を続けていても2年経過の時点で返還されない金額が確定します。

この違いは会計処理のタイミングに直結します。退去時償却なら解約が決まった事業年度に費用として認識し、期間経過で償却するなら該当する時点で認識します。契約書に償却の時期が明記されていない場合、退去時の精算をめぐって貸主と認識がずれることがあるため、契約前に確認しておくべき項目です。

100%償却という契約も存在する

検索でよく見かける「敷金100%償却」は、預けた敷金が全額返ってこない契約を指します。飲食店やサービス業の店舗物件で見られる形で、保証金という名称で高額を預け、全額が償却されるケースもあります。

この場合、預けた金額は実質的に権利金と同じ性質になります。会計上も預け金として資産に置いておく理由がなく、支出した時点から費用の性格を持ちます。ただし税務上は支出の効果が1年以上に及ぶかどうかで扱いが分かれるため、全額を支払時の損金にできるとは限りません。詳しくは後の繰延資産の項で説明します。

勘定科目の選び方

返ってくる部分は差入保証金

退去時に返還される敷金は、貸主に預けているだけで自社の債権です。勘定科目は「差入保証金」を使い、貸借対照表では資産に計上します。会社によっては「敷金」「敷金・保証金」という科目名を設けていることもあり、科目名そのものに決まりはありませんが、継続して同じ科目を使うことが必要です。

流動資産と固定資産のどちらに置くかは、返還予定時期で判断します。決算日の翌日から1年以内に返還される見込みなら流動資産、それより先なら投資その他の資産に区分するのが原則です。オフィスの賃貸借は複数年にわたることが多いため、実務では投資その他の資産に置く例が大半です。解約が決まって1年以内の返還が見込まれる段階になったら、流動資産へ振り替えます。

返ってこない部分は長期前払費用または繰延資産

償却されて返らないと決まった部分は、差入保証金から振り替えます。振替先は「長期前払費用」が一般的で、そこから償却期間にわたって費用に振り替えていきます。会社の規模や金額によっては「繰延資産」の科目を使うこともあります。

金額が20万円未満であれば、支出した事業年度に全額を損金にできます。法人税法施行令第134条が定めている少額繰延資産の取扱いで、判定は1つの契約ごとに行います。オフィスの敷金償却は20万円を超えることが多いため、この扱いを使えるのは小規模な区画や短期の契約に限られます。

貸主側は預り金として処理する

借りる側の話が中心になりがちですが、ビルオーナーや転貸をしている事業者は逆の処理になります。受け取った敷金のうち返還義務のある部分は「預り金」または「長期預り保証金」として負債に計上します。自社の売上ではないため、受け取った時点で収益にはしません。

償却の定めがある部分は、償却が確定した時点で収益になります。退去時償却なら退去した事業年度、期間経過による償却ならその時点です。消費税についても同じタイミングで課税売上として認識します。受け取った敷金を全額そのまま負債に置いたままにしていると、償却分の収益計上と消費税の申告が漏れるため注意してください。

仕訳の具体例

差入保証金の残高は契約時500万円、償却確定で400万円、償却期間中に年20万円ずつ費用化、退去時に400万円返還と動く

契約時に敷金を預けたとき

賃料50万円のオフィスを借り、敷金として賃料10ヶ月分の500万円を預け、そのうち2ヶ月分の100万円が退去時に償却される契約とします。契約時の仕訳は、差入保証金500万円を借方に計上し、支払った現預金500万円を貸方に置きます。この時点では償却部分も含めて全額を資産に計上して構いません。

ただし、償却されることが契約で確定している場合、支払った時点で返還されない部分を長期前払費用に振り替える処理もあります。どちらの方法でも最終的な損益は変わりませんが、償却部分を最初から分けておくほうが、決算時に残高の内訳を把握しやすくなります。継続適用を前提に、自社でどちらかに決めておくのが実務的です。

償却が確定したとき

上の例で退去が決まり、100万円の償却が確定した場合、差入保証金100万円を減らし、同額を長期前払費用に振り替えます。長期前払費用に計上した金額は、その後の償却期間にわたって費用へ振り替えていきます。

契約期間の途中で期間経過による償却が発生する場合も考え方は同じです。償却が確定した時点で差入保証金から振り替え、そこから費用化します。償却が確定していない段階で費用にすると、税務上は損金として認められません。確定した時点を契約書で押さえておくことが必要です。

退去して敷金が返ってきたとき

退去時に原状回復費用を差し引いて返還を受けた場合、返ってきた金額だけ差入保証金を減らします。差し引かれた原状回復費用は修繕費などの費用科目で処理します。償却分をすでに長期前払費用へ振り替えて費用化し終えていれば、この時点で追加の処理は生じません。

実務で残高が合わなくなるのは、償却分の振替を何年も行わないまま退去を迎えるケースです。差入保証金の残高が500万円のままなのに、実際に返ってくるのは原状回復費用を引いた300万円だった、という状況になり、差額の処理を一度に行うことになります。決算のたびに契約書と残高を突き合わせておけば防げます。

消費税の扱い

用途が事業用か住宅か、敷金が返ってくるかの2つの質問で、不課税・課税・非課税のいずれかに決まる

返還されるかどうかで課税と不課税が分かれる

敷金の消費税は、返還されるかどうかで判定します。国税庁のタックスアンサーNo.6225は、事業用の建物の賃貸借契約の締結や更新に伴う保証金、権利金、敷金、更新料などのうち、返還しないものは権利の設定の対価として課税の対象になると示しています。一方、契約の終了により返還される保証金や敷金は、資産の譲渡等の対価に該当しないため課税の対象になりません。

つまり預けた500万円のうち、返還される400万円は不課税、償却される100万円は課税取引です。全額を不課税として処理していると、償却部分の仕入税額控除を取り損ねることになります。根拠は消費税法第6条、同法別表第2、消費税法施行令第8条および第16条の2、消費税法基本通達5-4-3などで、令和8年4月1日現在の法令等にもとづく内容です。

住宅と事業用では結論が逆になる

同じ敷金でも、住宅の賃貸借では扱いが違います。住宅に係る賃貸借契約の締結や更新に伴う保証金、権利金、敷金、更新料などのうち返還しないものは、非課税とされています。事業用は課税、住宅は非課税という整理です。

社宅を借り上げている場合や、建物の一部を住宅として使っている場合は、契約で用途がどう定められているかを確認してください。国税庁は、契約において住宅用であることが明らかにされているもの、または用途が明らかにされていない場合に貸付けの状況から住宅用であることが明らかなものに限ると示しています。契約書の記載が判定の出発点になります。

仕入税額控除のタイミングは償却の確定時

償却部分を課税仕入れとして処理するタイミングは、返還されないことが確定した時点です。退去時償却なら退去した課税期間、期間経過による償却ならその時点の課税期間になります。契約時にはまだ返還されるかどうかが確定していないため、預けた時点では処理しません。

インボイス制度のもとでは、仕入税額控除を受けるために貸主からの適格請求書が必要です。償却は退去時にまとめて発生するため、精算書が請求書の要件を満たしているかを確認してください。貸主が免税事業者の場合は経過措置の対象になり、控除できる割合が変わります。

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税務上の償却期間

償却100万円は5年なら年20万円、3年なら年33万円、35年なら年2.9万円と1年あたりの費用が変わる

原則は5年で償却する

返還されない部分は、法人税法上の繰延資産に該当します。国税庁のタックスアンサーNo.5460は、法人が建物を賃借するために支払った権利金、立退料などの費用で支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶものは繰延資産となると示しています。敷金の償却部分も、返還されない以上は同じ扱いです。

償却期間は原則5年です。ただし契約による賃借期間が5年未満で、契約の更新に際して再び権利金等の支払を要することが明らかであるときは、その賃借期間が償却期間になります。定期建物賃貸借で3年契約を結び、再契約のたびに償却が発生する場合は3年で償却することになります。根拠は法人税法第2条第24号および第32条、法人税法施行令第14条、第64条、第67条、法人税基本通達8-1-5および8-2-3です。

例外的に長い償却期間になる場合

建物の新築に際して支払った権利金等で、その金額が建物の賃借部分の建設費の大部分に相当し、かつその建物が存続する期間中は賃借できる状況にあると認められる場合は、その建物の耐用年数の10分の7に相当する年数が償却期間になります。鉄骨鉄筋コンクリート造の事務所なら耐用年数50年の10分の7で35年です。

また、建物の賃借に際して支払った権利金等で、契約や慣習によって明渡しに際して借家権として転売できることになっている場合は、建物の賃借後の見積残存耐用年数の10分の7に相当する年数になります。いずれも一般的なオフィスの敷金償却では該当しませんが、ビル一棟を長期で借りる場合などは確認が必要です。

申告書への添付書類を忘れない

繰延資産の償却費を損金算入する場合、確定申告書に繰延資産の償却額の計算に関する明細書、いわゆる別表16(6)を添付する必要があります。金額が小さいと添付を失念しやすい書類で、税務調査で指摘される箇所でもあります。

償却限度額は、繰延資産の額を償却期間の月数で割り、その事業年度の月数を掛けて計算します。事業年度の中途で支出した場合は、支出の日から事業年度末までの月数で計算します。月数は暦に従って計算し、1ヶ月に満たない端数は1ヶ月として扱います。

2027年の新リース会計基準で何が変わるか

オペレーティング・リースも資産計上の対象になる

企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」が2027年4月1日以後開始する事業年度から強制適用されます。これまで賃貸借処理をしていたオフィスの賃貸借契約についても、使用権資産とリース負債を貸借対照表に計上することになります。

敷金そのものはリース料ではないため、使用権資産に含まれるわけではありません。ただし、契約に付随して支払う返還されない金銭は、リースの当初直接費用として使用権資産に含める整理になる場合があります。敷金の償却部分をどう扱うかは契約内容によって判断が分かれるため、適用前に監査法人や税理士と方針を決めておく必要があります。

預けた敷金が財務諸表の見え方を変える

新基準のもとでは、これまで注記にとどまっていた賃借の情報が貸借対照表に表れます。負債が増えることで自己資本比率が下がり、借入の財務制限条項に抵触する懸念が出る企業もあります。

このとき、資産に眠っている差入保証金の存在が意味を持ちます。敷金は返ってくる資産ではありますが、契約が続く限り動かせません。賃料10ヶ月分を預けていれば、その分の資金が長期にわたって固定されます。新基準で負債側が膨らむのと同時に、資産側で動かせない金額が大きいことは、財務の柔軟性という観点では不利に働きます。

預ける敷金そのものを減らす方法

契約交渉で償却の条件は動くことがある

償却は契約で定めるものなので、交渉の余地があります。空室期間が長い物件や、貸主が早期の埋め戻しを優先している状況では、償却月数の圧縮に応じる例があります。賃料の減額は貸主にとって収益の恒久的な低下になりますが、償却は一時的な条件であるため、賃料を維持したまま償却を削る交渉は成立しやすい面があります。

契約更新のタイミングも交渉の機会です。更新時に再度償却が発生する定めになっている場合、その負担を減らせないかを確認してください。すでに数年の入居実績があり、賃料の支払いに問題がないテナントであれば、貸主にとっても関係を続ける価値があります。

保証を使って敷金の預託そのものを減らす

交渉とは別に、保証会社の保証を使って預ける敷金の額を下げる方法があります。当社の敷金半額くんは、保証会社が貸主に対して賃料や原状回復費用の支払いを保証することで、テナントが預ける敷金を減らす仕組みです。貸主は保証によって担保を確保できるため、預託額を下げることに応じやすくなります。

預ける金額が減れば、その分の資金を事業に回せます。賃料50万円のオフィスで敷金が10ヶ月分から5ヶ月分になれば、250万円が手元に残ります。新リース会計基準の適用で財務の見え方が変わるタイミングでもあり、固定されている資金を圧縮しておく意味は大きくなっています。

すでに預けている敷金を動かす

入居中で、すでに多額の敷金を預けている場合は、敷金返還くんが使えます。預託済みの敷金の返還を貸主に請求し、代わりに保証を差し入れることで、眠っている資金を現金に戻す仕組みです。移転を伴わずに資金化できる点が特徴です。

賃料の高い都心のオフィスでは、敷金が数千万円に達することもあります。その資金が契約期間中ずっと動かせない状態は、成長段階の企業にとって機会損失になります。会計処理を正しく行うことと並んで、預けている金額そのものを見直すことも、敷金と向き合ううえでの実務的な選択肢です。

契約前に確認しておきたいこと

契約書のどこを読むか

償却の有無と金額、発生する時期の3点を契約書で確認してください。「償却」という言葉が使われていない契約書もあるため、解約時の精算方法を定めた条項を通して読む必要があります。敷引、解約引き、返還しない旨の記載がないかを探します。

原状回復費用との関係も押さえておくべき点です。償却とは別に原状回復費用を実費で請求される契約なのか、償却分で原状回復費用をまかなう契約なのかで、退去時の負担は大きく変わります。両方を請求される契約であれば、退去時のコストを見積もり直す必要があります。

経理部門に共有しておく情報

契約を締結したら、償却の金額と時期を経理部門に伝えてください。契約書が営業部門や総務部門で保管され、経理が償却の定めを把握していないために、差入保証金が動かないまま年数を重ねる例があります。

決算のたびに、差入保証金の残高と契約書の内容を突き合わせる運用にしておくと、退去時にまとめて処理する事態を避けられます。物件が複数ある場合は、契約ごとに償却の有無と時期を一覧にしておくと管理しやすくなります。

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