法人口座の開設で、銀行が確認すること
法律で決まっている4つの確認事項
銀行は法人の口座を開くとき、犯罪収益移転防止法にもとづく「取引時確認」をします。警察庁の「犯罪収益移転防止法の概要」(令和8年8月7日時点)によると、法人について確認する事項は次の4つで、ほかに手続きをする人(代表者など)の本人確認があります。
| 確認する事項 | 中身 | 確認の方法 |
|---|
| 本人特定事項 | 会社の名称と、本店または主たる事務所の所在地 | 登記事項証明書などの書類 |
| 取引を行う目的 | 口座を何に使うか | 会社(代表者など)からの申告 |
| 事業の内容 | 何の事業をしているか | 登記事項証明書、定款などの書類 |
| 実質的支配者 | 会社を実質的に支配している人 | 代表者などからの申告 |
株式会社では、議決権の25%を超えて(間接に持つ分を含めて)持つ人が実質的支配者で、50%を超えて持つ人がいれば、その人だけが実質的支配者になります。新たに設立した株式会社の口座開設を、議決権の50%超を単独で持つ代表者が自分で手続きする場合は、代表者だけが実質的支配者です。
この4つの確認事項に、本店で実際に事業をしているか、本店がバーチャルオフィスかどうかは入っていません。法律で決まった確認の範囲では、バーチャルオフィスの会社も、事務所を構える会社も、出す書類は同じです。
法律の書類のほかに、追加で求められることがある書類
実際の申し込みでは、追加の書類を求められることがあります。三菱UFJ銀行の「法人口座を開設されるお客さまへ」(2023年11月1日現在)は、質問の結果によって、追加の書類の提示を求めたり、口座の開設を断ったりすることがあるとしています。追加の書類として挙げているのは次の2種類です。
- 「会社案内、製品、パンフレット、お取引先さま向けご提案書(資料)、見積書、注文書、仕様書等」
- 許認可・届出・登録が必要な業種では、それが完了済であることを確認できる資料
全国銀行協会のリーフレット「お取引時の確認に関するお願い」(平成28年10月現在)も、事業の内容などの確認のために、法律で定められた書類以外の書類の提示を求めることがあるとしています。
設立したばかりで取引の実績が少ない会社は、こうした書類をそろえるのに時間がかかります。申し込みの前に、事業の中身と会社の情報を載せたWebサイト、取引先への提案書や見積書、受注の見込みを示せる注文書などを用意しておくと、追加の書類を求められたときにすぐ出せます。
所在地と事業の内容のつながりを説明できるようにする
金融庁の「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(令和8年3月31日の改正版)は、銀行などに、顧客がどのような人物・団体で、実質的支配者は誰か、どのような取引目的を持っているかなどを調べるよう求めています。そのうえで、「顧客の営業内容、所在地等が取引目的、取引態様等に照らして合理的ではないなどのリスクが高い取引等」については、取引の開始前などに「営業実態や所在地等を把握するなど追加的な措置を講ずること」を求めています。
このガイドラインに「バーチャルオフィス」という語は出てきません。追加の確認の対象として例に挙げているのは、所在地などが取引の目的や取引の態様に照らして合理的ではない取引です。たとえば、東京のバーチャルオフィスに本店を置き、実際には地方の代表者の自宅で仕事をしている会社なら、次の3点を申し込みのときに説明できるようにしておきます。
- 実際に仕事をしている場所と、そこで働く人数
- その住所に本店を置いている理由(東京の取引先が多い、など)
- 口座で受け取る売上と、支払う費用の主な相手
本店あての郵便の受け取りを、条件にする銀行がある
犯罪収益移転防止法の概要は、対面しないで法人の本人確認をする方法の一つに、登記事項証明書などの写しの送付を受けたうえで、本店あてに取引の書類を書留郵便などで「転送不要郵便物等」として送る方法を挙げています。
GMOあおぞらネット銀行は、よくある質問で「バーチャルオフィス・レンタルオフィスを法人の登記住所としている場合でも、GMOあおぞらネット銀行の法人口座を開設できます」としたうえで、口座の開設後に登録した法人の住所あてに転送不要の簡易書留を送るため、その郵便物を受け取れることが必須の条件になる、と書いています。全国銀行協会のリーフレットも、銀行が送ったキャッシュカードや案内が返送されてきた場合は、取引を止めることなどがあるとしています。
運営会社のなかには、受け取らない郵便を決めている会社があります。バーチャルオフィスDBの調べでは、郵便の決まりを掲載している121社のうち38社が、内容証明郵便や裁判所からの特別送達などを受け取れない郵便に挙げていました。口座を開く予定があるなら、バーチャルオフィスを契約する前に、書留と転送不要の郵便を受け取れるか、受け取ったときにどう知らせるかを運営会社に確認します。書留・配達証明郵便の扱いの例は、比較サイト「バーチャルオフィスDB」の「バーチャルオフィスで法人登記するときに確かめること」に載っています。

口座を開くまでの流れ
- 本店の登記をする(バーチャルオフィスの利用開始日以降に)
- 登記事項証明書、定款、印鑑証明書、代表者の本人確認書類をそろえる
- 事業の内容を示す書類(Webサイト、提案書、見積書、注文書など)をそろえる
- 銀行に申し込み、取引の目的と実質的支配者を申告する
- 質問や面談があれば、仕事をしている場所と事業の内容を説明する
- 審査を経て口座が開く。銀行によっては、開設の後に本店あての書留・転送不要郵便が届く
追加の書類や郵便の扱いは銀行ごとに違います。申し込む銀行の案内を読み、求められそうな書類を先にそろえておくと、やり取りの回数が減ります。
口座の開設を断られたときの見直し方
断られたら、同じ書類のまま別の銀行に申し込む前に、ここまでの確認事項に照らして3つを見直します。
1つ目は、事業の内容を示す書類です。Webサイトに事業の中身と会社の情報が載っているか、提案書・見積書・注文書を出せるかを見直します。
2つ目は、所在地の説明です。本店と実際に仕事をしている場所が違うなら、その場所と、本店をそこに置いている理由を説明できるようにします。
3つ目は、郵便です。本店あての書留や転送不要郵便が返送されていないかを、バーチャルオフィスの運営会社に確認します。受け取れないプランなら、受け取れるプランに変えるか、受け取れる運営会社に移ることも考えます。運営会社を移すと本店移転の登記が必要になり、登録免許税は同じ登記所の管轄の中なら3万円、管轄の外へ移るなら6万円かかります(国税庁 タックスアンサー No.7191、法務局の申請書の記載例)。
創業の融資で見られること
日本政策金融公庫の創業の融資
創業したばかりの会社が使うことの多い日本政策金融公庫は、創業予定の人向けの手続きの案内で、申し込みのあとの面談について「資金のお使いみちや事業計画などについてお話を伺います」とし、続けて「店舗や事業所の予定地をお訪ねいたします」と書いています。そのうえで、事業計画などを検討して融資を判断します。
申し込みに使う書類として挙げられているのは、創業計画書、設備資金を申し込む場合の見積書、法人の場合の履歴事項全部証明書または登記簿謄本、本人確認書類、飲食店など許可や届出が必要な事業を営む場合の許認可証などです。
創業計画書に、事業の場所と費用を書く
公庫が公開している創業計画書の記入例は、次の9つの欄で構成されています。
- 創業の動機
- 経営者の略歴等
- 取扱商品・サービス
- 取引先・取引関係等
- 従業員
- お借入の状況
- 必要な資金と調達方法
- 事業の見通し(月平均)
- 自由記述欄
バーチャルオフィスの会社が意識したいのは、4・7・8の欄と、事業の場所の説明です。4の取引先の欄には、販売先・仕入先との結びつきを書き、契約書・注文書などがあれば添付するよう書かれています。法人口座の開設で求められる事業の内容を示す書類と、同じものが使えます。
7の必要な資金の欄は、設備資金(店舗、工場、機械、車両など)と運転資金(商品仕入、経費支払資金など)に分かれ、記入例では設備資金の内訳に「保証金」が入っています。事務所を借りる予定があるなら、敷金・保証金の額を見積もってここに書くことになります。8の事業の見通しの欄には、売上高・売上原価・人件費・家賃・支払利息などを書きます。バーチャルオフィスのままなら家賃の欄はバーチャルオフィスの月額で済み、事務所を借りるなら賃料が入ります。どちらで事業をするかで、必要な資金と毎月の費用の両方が変わるため、計画書を書く前に決めておきます。
記入例には「立地選定理由についても触れてください」という注記もあります。公庫が訪ねるのは店舗や事業所の予定地なので、本店がバーチャルオフィスの会社は、本店の住所とは別に、実際に仕事をする場所(自宅、レンタルオフィス、これから借りる事務所など)とその場所を選んだ理由を計画書に書き、面談で広さや使い方、そこで働く人を説明できるようにします。許可が必要な事業なら、許認可証が申し込みの書類に入るため、許可を受ける事務所を先に決めておく必要があります。
資金の使い道に、事務所の敷金を入れるかどうか
創業の融資の資金で事務所を借りる場合、使い道には敷金も入ります。敷金は退去のときまで貸主に預けたままのお金なので、借りたお金のうち敷金に充てた分は、返済と利息がかかる一方で、事業には使えません。
日本政策金融公庫の面談で聞かれる「資金のお使いみち」を、事業そのもの(設備・仕入・広告・人件費)に寄せたいなら、敷金を減らす方法を先に比べておきます。敷金の少ない物件を選ぶ、敷金の月数を交渉する、保証に置き換える、の3つがあり、保証に置き換える方法は後の「事務所を構えるかどうかの判断」で説明します。
許可や免許に、事務所の要件がある業種
会社の登記と法人口座はバーチャルオフィスの住所でできても、業種によっては、許可や免許を受けるときに事務所や営業所の実体、広さ、構造を求められます。所管の役所の資料にある主な要件は次のとおりです。
| 業種 | 事務所・営業所について求められること | 資料 |
|---|
| 宅地建物取引業 | 本店・支店は、継続的に営業の拠点となる施設としての実体があるもの | 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」 |
| 建設業 | 請負契約の見積り・入札・契約の締結などを実際に行う事務所。大臣許可の申請では写真と使用の権原を確認 | 国土交通省「建設業許可事務ガイドライン」 |
| 労働者派遣事業 | 事業に使える面積がおおむね20㎡以上で、位置や設備が事業に適切 | 厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」 |
| 有料職業紹介事業 | 個室やパーティションで、プライバシーを守って対応できる構造(代わりの方法あり) | 厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」 |
| 古物商 | 営業の本拠で、帳簿や商品を保管する事務所・店舗を含む営業所。営業所ごとに常勤の管理者 | 警察庁「古物営業法等の解釈運用基準について」 |
宅地建物取引業
国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」は、本店・支店の「事務所」について、「商業登記簿等に登載されたもので、継続的に宅地建物取引業者の営業の拠点となる施設としての実体を有するもの」が該当するとしています。本店・支店のほかの「継続的に業務を行なうことができる施設」については、「営業活動の場所として、継続的に使用することができるもので、社会通念上事務所として認識される程度の形態を備えたもの」としています。同じ資料は、宅地建物取引業を営まない支店は事務所に当たらないとしていますが、本店は外していません。本店がバーチャルオフィスのままでは、本店にも事務所としての実体を求められる可能性があるため、免許を申請する前に、本店の扱いを申請先の窓口で確認します。
建設業
国土交通省の「建設業許可事務ガイドライン」は、「営業所」を本店・支店または常時建設工事の請負契約を締結する事務所とし、常時請負契約を締結する事務所を「請負契約の見積り、入札、狭義の契約締結等、請負契約の締結に係る実体的な行為を行う事務所」としています。国土交通大臣の許可の申請では、営業所のある建物の外観、入口付近、営業所の内部、標識の掲示がわかる写真を確認し、営業所を使う権原(自己所有か賃貸借か)も確認するとしています。都道府県知事の許可は、各都道府県の手引きで要件と書類を確認します。
労働者派遣事業
厚生労働省の「労働者派遣事業関係業務取扱要領」は、許可の基準として、事業所について「事業に使用し得る面積がおおむね20㎡以上あるほか、その位置、設備等からみて、労働者派遣事業を行うのに適切であること」を挙げています。20㎡は約6坪です。
有料職業紹介事業
厚生労働省の「職業紹介事業の業務運営要領」は、有料職業紹介事業の事業所について、位置・構造・設備・面積からみて職業紹介事業を行うのに適切であることを求め、具体的には、個室の設置やパーティションでの区分などで、プライバシーを守って求人者や求職者に対応できる構造を求めています。この構造の代わりに、予約制や近くの貸部屋の確保などで対応する方法や、専らインターネットを使って対面しない紹介も認めており、当分の間は事業所の面積がおおむね20㎡以上であることでもよいとしています。代わりの方法を選んでも、事業所の位置などが適切であることは求められます。
古物商
警察庁の「古物営業法等の解釈運用基準について」は、営業所を「人の営業の本拠であって、営業全般についての法律的事実的行為の責任の所在場所」とし、「営業上必要な帳簿や商品を保管する事務所、店舗等を含めた意味」としています。管理者は、営業所ごとに常勤して管理者の業務に従事できる状態でなければならないとされています(近くの営業所どうしなら兼任できる場合もあります)。行商だけをする者は、住所または居所を営業所とみなすとされています。それ以外の形で古物を売買するなら、帳簿と商品を置き、管理者が常勤できる場所を営業所として、許可の申請書に記載することになります。
許可を受ける事務所の用意の仕方と順番
これらの業種では、許可を受ける場所として事務所を借りるのが基本です。個室のあるレンタルオフィスで要件を満たせることもありますが、認められるかどうかは業種と所管の役所の判断によります。申請の前に、申請の窓口(宅地建物取引業・建設業は都道府県や国土交通省の地方整備局など、労働者派遣事業・有料職業紹介事業は都道府県労働局、古物商は警察署)に、借りる予定の場所の図面と契約の形を見せて確認します。業種によっては、自己資本や基準資産の額などの財産の要件もあるため、事務所の費用とあわせて所管の役所の基準を確認します。
三菱UFJ銀行は、質問の結果によって、許認可が完了済であることを確認できる資料の提示を求めることがあるとしています。この資料を求められた場合は、会社の登記、事務所の契約、許可の取得のあとに口座を開く順番になります。一方で、敷金や賃料の支払い、財産の要件の確認のために、口座が先に必要になる場面もあります。申し込む銀行と許可の申請窓口の両方に、順番を確認しておきます。どちらの順番でも、売上が立つ前に事務所の敷金と賃料が出ていくため、その資金を設立の前から見込んでおきます。
