滞納から明渡しまでの流れ

| 段階 | 主な対応 |
|---|
| 1. 確認と連絡 | 入金を確かめ、事情と入金予定を聞く |
| 2. 督促と合意 | 支払い計画を書面で合意する |
| 3. 催告と解除 | 内容証明郵便で催告し、解除を通知する |
| 4. 明渡しの交渉 | 明渡し日と精算を合意する |
| 5. 訴訟 | 明渡しと未払い賃料を求める |
| 6. 強制執行 | 判決にもとづき明渡しを実現する |
1〜2で解消すれば、契約は続けられます。3以降に進むかどうかは、滞納の額と期間、テナントの対応を見て判断します。
1. 入金を確かめ、すぐに連絡する
支払日の翌日には確認する
賃料の支払日は契約で決めます。契約で定めがなければ、民法の原則では建物の賃料はその月の末に払うことになっていますが(第614条)、契約で、翌月分を当月末までに前払いするなど、別の支払日を定めることもできます。支払日の翌日には入金を確かめ、遅れていればすぐに連絡します。
事情と入金予定を聞き、記録を残す
連絡では、遅れた理由と入金の予定日を確かめます。単なる手続きの遅れなのか、資金繰りが悪化しているのかで、その後の対応が変わるためです。いつ誰とどんなやり取りをしたかは、あとで訴訟になったときの証拠にもなるため、記録に残します。
保証会社と連帯保証人にも連絡する
家賃保証会社を使っている場合は、保証委託契約で決められた期限と方法で、滞納を保証会社に報告します。報告の期限を過ぎると保証を受けられなくなる定めがある契約もあるため、契約の内容を確かめておきます。
個人の連帯保証人がいる場合、連帯保証人から求められたときは、オーナーは、滞納の有無や残額などの情報を、遅れずに伝えなければなりません(民法第458条の2)。
2. 督促し、支払い計画を書面で合意する
一度に払えないテナントとは、分割払いなどの支払い計画を話し合います。合意した内容は、口約束にせず書面にします。
- 払う額と期日:未払いの総額、毎回の額と期日
- 守れなかったとき:期日に払わなければ残りを一括で払うこと、契約を解除できること
- 今後の賃料:これからの賃料も期日どおり払うこと
合意書の条項は、たとえば次のように書きます(条項は説明のための例です)。
- 「借主は、貸主に対し、令和○年○月分から○月分までの未払賃料合計○円の支払義務があることを認める。」
- 「借主は、前項の金額を、令和○年○月から○月まで、毎月末日限り○円ずつ、貸主の指定する口座に振り込んで支払う。」
- 「借主が前項の支払いを1回でも怠ったときは、借主は当然に期限の利益を失い、残額を直ちに支払う。この場合、貸主は催告なく本件賃貸借契約を解除することができる。」
- 「借主は、令和○年○月分以降の賃料を、契約の定めどおりに支払う。」
1つ目の条項のように、未払いの額を認める文を入れておくと、あとで額について争いになりにくくなります。3つ目の条項のように催告なしで解除できると定めても、裁判では、信頼関係が壊れたといえるかどうかで解除の有効性が判断されることがあります。
未払いの賃料を請求する権利は、請求できると知った時から5年間使わないと時効で消えます(民法第166条第1項)。テナントが支払い計画の合意書などで未払いを認めると、時効はその時から新たに進み始めます(第152条)。
3. 内容証明郵便で催告し、契約を解除する
期間を決めて払うよう求め、払わなければ解除する
支払い計画が守られない、連絡がつかないといった場合は、契約の解除を考えます。民法は、相手が債務を履行しないときは、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がなければ、契約を解除できると定めています(第541条)。
実務では、「この書面が届いてから○日以内に未払いの賃料を払うよう求め、払わなければ契約を解除する」という内容を、内容証明郵便で送ることが多くなります。送った日付と内容を郵便局が証明するため、催告と解除の通知をしたことを示せます。
催告と解除の通知の文例
内容証明郵便で送る通知は、たとえば次のような内容にします(文例は説明のための例です)。
「貴社は、当社との間の令和○年○月○日付建物賃貸借契約(物件:○○ビル○階)に基づく令和○年○月分から○月分までの賃料合計○円の支払いを怠っています。つきましては、本書到達後○日以内に上記金額をお支払いください。上記期間内にお支払いがないときは、あらためて通知することなく、上記期間の経過をもって本件賃貸借契約を解除いたします。」
未払いの期間と額、支払いの期限、期限までに払われなければ解除することを、はっきり書きます。個人の連帯保証人がいる場合は、保証人にも未払いの状況を知らせます。
1回の遅れで解除できるとは限らない
賃貸借契約は長く続く契約であるため、裁判所は、賃料の不払いがあっても、オーナーとテナントの信頼関係が壊れたとまではいえない場合には、解除を認めないことがあります(信頼関係破壊の法理と呼ばれる考え方です)。滞納の額と期間、それまでの支払いの状況、督促への対応などから判断されるため、「何か月分滞納したら解除できる」という決まった月数はありません。民法も、不履行が軽微なときは解除できないとしています(第541条ただし書)。
4. 明渡しを交渉する:自分で追い出してはいけない
契約を解除しても、テナントが出ていかない限り、オーナーが自分の力で明渡しを実現することはできません。テナントの同意なく鍵を替える、荷物を運び出す、といった実力による追い出しは、法律の手続きによらずに権利を実現する「自力救済」として認められず、オーナーが損害賠償を求められるおそれがあります。
まずはテナントと話し合い、次のような内容を書面で合意します。
- 明渡しの日
- 残った荷物(残置物)の扱い。残した物の所有権を放棄し、オーナーが処分してよいことなど
- 未払いの賃料と敷金の精算の方法
5. 明渡しと未払い賃料を求めて訴訟を起こす
話し合いで解決しなければ、建物の明渡しと未払いの賃料の支払いを求めて訴訟を起こします。判決が出るか、裁判上の和解が成立すると、それにもとづいて強制執行ができるようになります。
退去したあとに未払いの賃料だけが残り、その額が60万円以下であれば、簡易裁判所の少額訴訟を使う方法もあります(民事訴訟法第368条)。少額訴訟は金銭の支払いを求める訴えに限られるため、明渡しを求めるときは通常の訴訟になります。
6. 強制執行で明渡しを実現する
判決などにもとづく明渡しの強制執行は、執行官が、テナントの建物への占有を解いて、オーナーに占有を取得させる方法で行います(民事執行法第168条第1項)。強制執行は、オーナーかその代理人が現場に立ち会ったときに限り行えます(同条第3項)。
執行官は、明渡しの強制執行の申立てがあり、強制執行を始められるときは、引渡しの期限を定めて明渡しの催告をすることができ、その旨を物件に公示します。引渡しの期限は、原則として催告の日から1か月を経過する日です(民事執行法第168条の2)。催告のあとは、テナントは物件の占有をほかの人に移すことができなくなります。期限までに明け渡されなければ、執行官が占有を解いて、オーナーに引き渡します。
建物に残された、明渡しの対象ではない荷物は、執行官が取り除いて、テナント側に引き渡します。引き渡せないときは、執行官が売却したり保管したりし、保管にかかった費用は執行費用になります(同条第5項〜第7項)。強制執行の費用で必要なものは、債務者(テナント)の負担とされ(民事執行法第42条)、訴訟の費用も原則として敗訴した側の負担です(民事訴訟法第61条)。ただし、実際に回収できるかはテナントの資力によります。訴訟から強制執行までには時間と費用がかかるため、それまでの段階で解決できるよう、早めに動くことが大切です。