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テナントの家賃滞納、オーナーの対応と法的な流れ

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テナントの家賃滞納、オーナーの対応と法的な流れ

オフィスや店舗のテナントが賃料を滞納したとき、ビルのオーナーがとる対応は、連絡と督促、支払い計画の合意、契約の解除、明渡しの交渉、訴訟、強制執行と段階を踏んで進みます。対応が遅れると未払いが積み上がり、逆に手順を飛ばして鍵を替えるなどの実力行使をすると、オーナーのほうが責任を問われるおそれがあります。

事業用のテナントの滞納は、テナントの資金繰りが悪化しているサインであることがあり、最初の対応の速さが回収できる額を左右します。また、敷金、連帯保証人、家賃保証会社という、契約時に用意した担保をどう使うかも大切です。

この記事では、テナントの家賃滞納への対応の流れを、民法や民事執行法の条文をもとに段階ごとに整理し、敷金と連帯保証人に請求するときの注意点、滞納に備える契約の仕組みをまとめます。

滞納から明渡しまでの流れ

テナントの家賃滞納への対応の流れ。1.入金の確認と連絡、2.督促と支払い計画の合意、3.内容証明郵便で催告し契約を解除、4.明渡しの交渉、5.明渡しと未払い賃料の訴訟、6.強制執行。どの段階でも、借主の同意なく鍵を替えたり荷物を運び出したりしてはいけない

段階主な対応
1. 確認と連絡入金を確かめ、事情と入金予定を聞く
2. 督促と合意支払い計画を書面で合意する
3. 催告と解除内容証明郵便で催告し、解除を通知する
4. 明渡しの交渉明渡し日と精算を合意する
5. 訴訟明渡しと未払い賃料を求める
6. 強制執行判決にもとづき明渡しを実現する

1〜2で解消すれば、契約は続けられます。3以降に進むかどうかは、滞納の額と期間、テナントの対応を見て判断します。

1. 入金を確かめ、すぐに連絡する

支払日の翌日には確認する

賃料の支払日は契約で決めます。契約で定めがなければ、民法の原則では建物の賃料はその月の末に払うことになっていますが(第614条)、契約で、翌月分を当月末までに前払いするなど、別の支払日を定めることもできます。支払日の翌日には入金を確かめ、遅れていればすぐに連絡します。

事情と入金予定を聞き、記録を残す

連絡では、遅れた理由と入金の予定日を確かめます。単なる手続きの遅れなのか、資金繰りが悪化しているのかで、その後の対応が変わるためです。いつ誰とどんなやり取りをしたかは、あとで訴訟になったときの証拠にもなるため、記録に残します。

保証会社と連帯保証人にも連絡する

家賃保証会社を使っている場合は、保証委託契約で決められた期限と方法で、滞納を保証会社に報告します。報告の期限を過ぎると保証を受けられなくなる定めがある契約もあるため、契約の内容を確かめておきます。

個人の連帯保証人がいる場合、連帯保証人から求められたときは、オーナーは、滞納の有無や残額などの情報を、遅れずに伝えなければなりません(民法第458条の2)。

2. 督促し、支払い計画を書面で合意する

一度に払えないテナントとは、分割払いなどの支払い計画を話し合います。合意した内容は、口約束にせず書面にします。

  • 払う額と期日:未払いの総額、毎回の額と期日
  • 守れなかったとき:期日に払わなければ残りを一括で払うこと、契約を解除できること
  • 今後の賃料:これからの賃料も期日どおり払うこと

合意書の条項は、たとえば次のように書きます(条項は説明のための例です)。

  • 「借主は、貸主に対し、令和○年○月分から○月分までの未払賃料合計○円の支払義務があることを認める。」
  • 「借主は、前項の金額を、令和○年○月から○月まで、毎月末日限り○円ずつ、貸主の指定する口座に振り込んで支払う。」
  • 「借主が前項の支払いを1回でも怠ったときは、借主は当然に期限の利益を失い、残額を直ちに支払う。この場合、貸主は催告なく本件賃貸借契約を解除することができる。」
  • 「借主は、令和○年○月分以降の賃料を、契約の定めどおりに支払う。」

1つ目の条項のように、未払いの額を認める文を入れておくと、あとで額について争いになりにくくなります。3つ目の条項のように催告なしで解除できると定めても、裁判では、信頼関係が壊れたといえるかどうかで解除の有効性が判断されることがあります。

未払いの賃料を請求する権利は、請求できると知った時から5年間使わないと時効で消えます(民法第166条第1項)。テナントが支払い計画の合意書などで未払いを認めると、時効はその時から新たに進み始めます(第152条)。

3. 内容証明郵便で催告し、契約を解除する

期間を決めて払うよう求め、払わなければ解除する

支払い計画が守られない、連絡がつかないといった場合は、契約の解除を考えます。民法は、相手が債務を履行しないときは、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がなければ、契約を解除できると定めています(第541条)。

実務では、「この書面が届いてから○日以内に未払いの賃料を払うよう求め、払わなければ契約を解除する」という内容を、内容証明郵便で送ることが多くなります。送った日付と内容を郵便局が証明するため、催告と解除の通知をしたことを示せます。

催告と解除の通知の文例

内容証明郵便で送る通知は、たとえば次のような内容にします(文例は説明のための例です)。

「貴社は、当社との間の令和○年○月○日付建物賃貸借契約(物件:○○ビル○階)に基づく令和○年○月分から○月分までの賃料合計○円の支払いを怠っています。つきましては、本書到達後○日以内に上記金額をお支払いください。上記期間内にお支払いがないときは、あらためて通知することなく、上記期間の経過をもって本件賃貸借契約を解除いたします。」

未払いの期間と額、支払いの期限、期限までに払われなければ解除することを、はっきり書きます。個人の連帯保証人がいる場合は、保証人にも未払いの状況を知らせます。

1回の遅れで解除できるとは限らない

賃貸借契約は長く続く契約であるため、裁判所は、賃料の不払いがあっても、オーナーとテナントの信頼関係が壊れたとまではいえない場合には、解除を認めないことがあります(信頼関係破壊の法理と呼ばれる考え方です)。滞納の額と期間、それまでの支払いの状況、督促への対応などから判断されるため、「何か月分滞納したら解除できる」という決まった月数はありません。民法も、不履行が軽微なときは解除できないとしています(第541条ただし書)。

4. 明渡しを交渉する:自分で追い出してはいけない

契約を解除しても、テナントが出ていかない限り、オーナーが自分の力で明渡しを実現することはできません。テナントの同意なく鍵を替える、荷物を運び出す、といった実力による追い出しは、法律の手続きによらずに権利を実現する「自力救済」として認められず、オーナーが損害賠償を求められるおそれがあります。

まずはテナントと話し合い、次のような内容を書面で合意します。

  • 明渡しの日
  • 残った荷物(残置物)の扱い。残した物の所有権を放棄し、オーナーが処分してよいことなど
  • 未払いの賃料と敷金の精算の方法

5. 明渡しと未払い賃料を求めて訴訟を起こす

話し合いで解決しなければ、建物の明渡しと未払いの賃料の支払いを求めて訴訟を起こします。判決が出るか、裁判上の和解が成立すると、それにもとづいて強制執行ができるようになります。

退去したあとに未払いの賃料だけが残り、その額が60万円以下であれば、簡易裁判所の少額訴訟を使う方法もあります(民事訴訟法第368条)。少額訴訟は金銭の支払いを求める訴えに限られるため、明渡しを求めるときは通常の訴訟になります。

6. 強制執行で明渡しを実現する

判決などにもとづく明渡しの強制執行は、執行官が、テナントの建物への占有を解いて、オーナーに占有を取得させる方法で行います(民事執行法第168条第1項)。強制執行は、オーナーかその代理人が現場に立ち会ったときに限り行えます(同条第3項)。

執行官は、明渡しの強制執行の申立てがあり、強制執行を始められるときは、引渡しの期限を定めて明渡しの催告をすることができ、その旨を物件に公示します。引渡しの期限は、原則として催告の日から1か月を経過する日です(民事執行法第168条の2)。催告のあとは、テナントは物件の占有をほかの人に移すことができなくなります。期限までに明け渡されなければ、執行官が占有を解いて、オーナーに引き渡します。

建物に残された、明渡しの対象ではない荷物は、執行官が取り除いて、テナント側に引き渡します。引き渡せないときは、執行官が売却したり保管したりし、保管にかかった費用は執行費用になります(同条第5項〜第7項)。強制執行の費用で必要なものは、債務者(テナント)の負担とされ(民事執行法第42条)、訴訟の費用も原則として敗訴した側の負担です(民事訴訟法第61条)。ただし、実際に回収できるかはテナントの資力によります。訴訟から強制執行までには時間と費用がかかるため、それまでの段階で解決できるよう、早めに動くことが大切です。

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家賃保証会社がいる場合の流れ

テナントが家賃保証会社を使っている場合は、流れが変わります。オーナーが滞納を報告すると、保証会社が保証の範囲で未払いの賃料をオーナーに立て替えて払い(代位弁済)、そのあとの督促や回収は、保証会社がテナントに対して行います。オーナーにとっては、賃料の入金が止まらず、督促の手間も減ります。

ただし、保証の範囲(何か月分まで立て替えるか、原状回復の費用や訴訟の費用を含むか)や、報告の期限、明渡しの手続きをどちらが進めるかは、保証会社や契約によって違います。滞納が起きる前に、保証委託契約の内容を確かめておきます。

オフィス・店舗ならではの注意点

事業用の物件の滞納では、住居とは違う点にも気を配ります。

  • 営業が続いている:店舗やオフィスで営業が続いている間は、テナントの取引先や来店客もいる。張り紙などで滞納を周囲に知らせることは、テナントの信用を傷つけ、トラブルのもとになる
  • 什器や在庫が残る:明渡しのときに、什器、在庫、看板、内装の造作が残りやすい。残置物の扱い(所有権の放棄と処分の費用の負担)を、合意書ではっきりさせる
  • 原状回復の範囲が大きい:内装工事をしている物件では、原状回復の費用が敷金を上回ることがある。解約の合意では、原状回復の範囲と費用の負担も決める
  • テナントの経営の状況:滞納がテナントの経営悪化によるものなら、破産などの手続きに進むこともある。その場合は、裁判所や破産管財人の手続きにしたがう

敷金を未払いの賃料に充てる

オーナーは、テナントが賃料を払わないとき、預かっている敷金を未払いの賃料に充てることができます(民法第622条の2第2項)。一方、テナントの側から「敷金から払ってほしい」と求めることはできません。

入居中に敷金を充てると、残りの敷金が減り、その後の担保が少なくなります。契約で、充てた分の敷金を補充するよう定めていれば、テナントに補充を求めます。退去して明け渡したときは、預かった敷金から、未払いの賃料や原状回復の費用などを差し引いた残りを返します(同条第1項)。

個人の連帯保証人に請求するときの注意

2020年4月に施行された改正民法で、個人の連帯保証人についての決まりが変わりました。2020年4月1日以降に結んだ保証契約では、次の点に注意します。

個人の連帯保証人に請求するときの注意点。極度額(保証の上限額)を書面で定めていない保証は効力がない。テナントか連帯保証人が亡くなると、それ以後に生じた滞納は保証の対象外になる。テナントが財産や収支の状況を連帯保証人に説明しておらず、オーナーがそれを知ることができたときは、連帯保証人が保証を取り消せることがある

注意点内容
極度額上限額を定めないと保証の効力がない
死亡以後の滞納は保証の対象外になる
情報の提供説明がないと保証を取り消されることがある
  • 極度額:賃貸借の連帯保証のように、将来の不特定の債務を保証する個人の保証(個人根保証契約)は、保証の上限額(極度額)を定めなければ効力を生じません(民法第465条の2)
  • 死亡:テナントか連帯保証人が亡くなると、保証する元本が確定し(第465条の4第1項第3号)、それ以後に生じた滞納は保証の対象になりません
  • 情報の提供:事業のための債務の保証を頼むとき、テナントは、財産や収支の状況などを連帯保証人に説明しなければなりません。説明がなかったり事実と違ったりして、オーナーがそれを知り、または知ることができたときは、連帯保証人は保証契約を取り消せます(第465条の10)

連帯保証人の決まりは「オフィス賃貸借契約と民法改正(1)連帯保証人とは」でも説明しています。

滞納に備える契約の仕組み

滞納が起きたときに回収できるかどうかは、契約のときに用意した担保で決まります。

担保特徴
敷金手元にあり、未払いにすぐ充てられる。ただし額が大きいとテナントが集まりにくい
個人の連帯保証人極度額の範囲まで。死亡や取消しで保証がなくなることがある
家賃保証会社保証会社が立て替えて払う。個人保証の極度額などの決まりは適用されない

個人の連帯保証人についての極度額や情報の提供の決まりは、保証人が法人である場合には適用されません(民法第465条の2、第465条の10第3項)。

当社は、オフィスや店舗のオーナー向けに、賃料の未払いや原状回復の費用など、賃貸借契約にもとづくテナントの債務を保証する「賃料保証」を提供しています。敷金の一部を当社の保証に置き換える「敷金半額くん(オーナー様向け)」なら、テナントの敷金を下げて入居を促しながら、担保の力を保てます。

よくある質問

何か月滞納したら契約を解除できますか?

法律で決まった月数はありません。相当の期間を定めて催告し、その期間内に払われなければ解除できますが(民法第541条)、裁判では、滞納の額と期間、それまでの経緯などから、信頼関係が壊れたといえるかで判断されます。

滞納しているテナントの部屋の鍵を替えてもよいですか?

テナントの同意なく鍵を替えたり荷物を運び出したりすることは、自力救済として認められず、損害賠償を求められるおそれがあります。明渡しは、話し合いか、訴訟と強制執行で実現します。

敷金から未払いの賃料を差し引けますか?

オーナーは、敷金を未払いの賃料に充てることができます(民法第622条の2第2項)。テナントの側から、敷金から払うよう求めることはできません。

未払いの賃料はいつまで請求できますか?

請求できることを知った時から5年間請求しないと、時効で消えます(民法第166条第1項)。テナントが未払いを認めると、時効はその時から新たに進み始めます(第152条)。

保証会社がいる場合、オーナーは何をすればよいですか?

保証委託契約で決められた期限と方法で、滞納を保証会社に報告します。報告が遅れると保証の対象外になる定めがある契約もあるため、支払日の翌日には入金を確かめる仕組みを作っておきます。

滞納しているテナントから解約を申し出られたら?

明渡しの日、残置物の扱い、未払いの賃料と敷金の精算の方法を、解約の合意書にまとめます。未払いの賃料は敷金から差し引き、足りない分の支払い方法も合意書で決めておきます。

まとめ

  • 滞納への対応は、確認と連絡、督促と合意、催告と解除、明渡しの交渉、訴訟、強制執行の順に進む
  • 支払い計画は書面で合意する。テナントが未払いを認めると時効が新たに進み始める
  • 解除は、期間を定めて催告してから。1回の遅れで解除できるとは限らない
  • 鍵を替える、荷物を運び出すといった実力による追い出しはしない。明渡しは話し合いか強制執行で
  • 敷金は未払いに充てられる。個人の連帯保証人は極度額と情報の提供に注意し、保証会社も組み合わせて備える

出典:民法第152条・第166条・第458条の2・第465条の2・第465条の4・第465条の10・第541条・第614条・第622条の2、民事訴訟法第61条・第368条、民事執行法第42条・第168条・第168条の2。

Tags#ビルオーナー
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