売主が準備すること
- テナントごとの賃貸借契約書、更新・改定の合意書、預り証の写し
- 預り敷金の一覧(額、償却の定め、精算の基準日時点の残高)
- 賃料・共益費の入金の記録と、未払いの一覧
- 転貸や造作譲渡の承諾書、保証会社との契約の写し
- テナントとの交渉中の事項(賃料改定、原状回復、立ち退きなど)の記録
テナントへの通知
貸主が変わったことを、テナントに書面で知らせます。賃料の振込先が変わるため、いつの支払分から新しい振込先に払うのかを明確にします。
○○ビルの所有権は、令和○年○月○日付で、○○株式会社(旧所有者)から△△株式会社(新所有者)に移転いたしました。これに伴い、貴社との賃貸借契約における賃貸人の地位は新所有者が承継し、お預かりしている敷金の返還債務も新所有者が承継しております。令和○年○月分以降の賃料等は、下記の口座にお振り込みください。
旧所有者と新所有者の連名で通知すると、テナントが二重に払ったり、払い先を迷ったりするのを防げます。
税務の注意点
事業用の建物の賃料は、消費税の課税の対象です(国税庁 タックスアンサー No.6225)。売買のあとは、買主が賃料を受け取る事業者として申告します。
一方、売買で預り敷金を買主に引き継ぐときの、消費税や譲渡所得での扱いを明示した国税庁の資料は見当たりません。精算の方法によって計算が変わる可能性があるため、取引の前に税理士に確認します。
なお、売買ではなく贈与で賃貸物件を移す場合について、国税庁は、父親が長男に賃貸アパートを贈与し、預かっている敷金に相当する現金も同時に贈与した事例で、実質的な負担はなく、負担付贈与にあたらないと解するのが相当としています(質疑応答事例「賃貸アパートの贈与に係る負担付贈与通達の適用関係」)。事業承継や相続対策で物件を移すときも、敷金の扱いが論点になります。
テナントの立場から見たオーナーチェンジ
テナントの側では、貸主が変わっても、賃貸借の条件はそのまま続きます。敷金は新しい貸主が返す義務を負います(民法第605条の2第4項)。通知を受けたら、新しい貸主に、引き継いだ敷金の額と条件を書面で確認しておきます。旧所有者が倒産した場合を含め、テナントの立場からの注意点は「オーナーが倒産・ビル売却したら敷金はどうなる?」で整理しています。
預かり敷金を抱えるオーナーの選択肢
預かり敷金は、退去のときに返す負債です。多くのテナントの敷金を預かっている物件ほど、売買の精算でも、テナントの入れ替わりのときの資金繰りでも、その額が大きな意味を持ちます。
当社の「敷金返還くん(不動産オーナー向け)」は、預かっている敷金を当社の保証に置き換えて、テナントに返還できる仕組みです。賃料の不払いや原状回復の費用などは当社の保証でカバーするため、敷金を返しても担保力は保たれます。テナントとの契約更新や賃料改定の交渉の材料としても使えます。利用には当社の審査があり、当社への保証料がかかります。
よくある質問
オーナーチェンジに、テナントの承諾は必要ですか?
必要ありません。対抗要件を備えた賃貸借がある不動産が譲渡されれば、貸主の地位は買主に移ります(民法第605条の2第1項)。売主と買主の合意で移す場合も、テナントの承諾は要りません(第605条の3)。
売主と買主の間で敷金を引き継がなかったら、どうなりますか?
テナントに対して敷金を返す債務は、買主が引き継ぎます(第605条の2第4項)。売主と買主の間で精算していなければ、買主が自分の負担で返すことになり、あとから売主に請求できるかは売買の契約によります。
買主は、いつからテナントに賃料を請求できますか?
所有権の移転の登記をすれば、貸主の地位をテナントに主張できます(第605条の2第3項)。決済日などを基準に、その後の賃料を買主が受け取るよう、売買の契約で精算を定めておきます。
定期借家契約も、そのまま引き継がれますか?
引き継がれます。移るのは貸主の地位なので、契約の内容はそのままです。期間が1年以上の定期借家契約では、期間の満了の1年前から6か月前までの間に、テナントに契約が終わることを通知しなければ、その終了をテナントに主張できません(借地借家法第38条第6項)。売買の時期がこの通知の期間にかかるときは、売主と買主のどちらが通知するかを決めておきます。
買主は、引き継いだ賃料を変えられますか?
買主は、売主が結んだ契約の条件をそのまま引き継ぎます。賃料を変えるには、テナントとの合意か、借地借家法第32条の賃料増減額請求によります。進め方は「賃料増額請求の進め方」で整理しています。
テナントが賃料を滞納している場合、売買の前の未払い分は誰のものですか?
売買の契約で決めます。売主が回収するのか、買主が引き継ぐのかを明確にし、テナントにもどちらに払うのかを知らせます。
まとめ
- オーナーチェンジでは、テナントとの賃貸借はそのまま続き、貸主の地位が買主に移る。テナントの承諾は要らない
- 買主がテナントに貸主の地位を主張するには、所有権の移転の登記が必要
- 敷金を返す債務は買主が引き継ぐ。売買の契約で、預り敷金の精算の方法と、償却・未払い分の扱いを決める
- 買主は、契約書・預り敷金・入金の記録を突き合わせて確かめる。テナントには連名で通知する
- 預り敷金の引継ぎの税務は、事前に税理士に確認する。預かり敷金を保証に置き換える方法もある
出典:民法第605条・第605条の2・第605条の3・第608条・第622条の2、借地借家法第31条・第32条・第38条、国税庁 質疑応答事例「賃貸アパートの贈与に係る負担付贈与通達の適用関係」、国税庁「No.6225 地代、家賃や権利金、敷金など」。