ハイグレードビルとはどんなビルか
規模・築年数・設備で線が引かれている
ハイグレードビルに法律上の定義はなく、不動産の調査会社や仲介会社がそれぞれの基準でビルを分けています。よく使われるのが、三幸エステートの「Aクラスビル」の目安です。東京都心5区の主要オフィス街と周辺区のオフィス集積地域にあり、延床面積1万坪以上、1フロアの面積300坪以上、築15年以内で、天井高2.7m以上・個別空調・高い耐震性や環境性能を備えることを原則としています。
定義はこのほかにもあり、不動産サービス大手のCBREは、延床面積1万坪以上・基準階面積500坪以上などの条件を満たすビルを「グレードA」としています。各社の基準の違いや、設備の見方、東京の主なエリアは、Growth Officeのコラムハイグレードオフィスとは?Sクラス・Aクラスの基準、賃料と空室率の推移、設備の見方と東京の主なエリアで詳しく解説しています。
いま最も借りにくい層のビル
三幸エステートとニッセイ基礎研究所の「オフィスレント・インデックス」によると、東京都心部のAクラスビルの成約賃料は2026年4〜6月期に1坪あたり38,259円(共益費を除く)でした。3年前の2023年4〜6月期は25,655円だったので、約1.5倍に上がっています。空室率は0.8%で、1%を下回る状態が続いています。
空室が少ないと、貸主は入居する会社を選べる立場になります。三幸エステートは同じレポートで、BクラスやCクラスのビルでもオーナーが募集条件を引き上げる動きが広がっていると指摘しています。空室の少ないハイグレードビルでは、敷金の月数や契約の条件について、借りる側が交渉で有利に立ちにくいと考えておいたほうがよいでしょう。
入居審査で見られること
貸主が確かめたいのは「賃料を払い続けられるか」
入居審査で貸主がいちばん知りたいのは、契約期間を通して賃料を払い続けられる会社かどうかです。1坪あたり38,259円で100坪を借りると、月額の賃料は約383万円、年間では約4,591万円になります。貸主から見れば、それだけの金額を毎年受け取れるかどうかを入居前に判断することになります。
敷金は、その支払いを担保するために預けるお金です。民法第622条の2は、敷金を「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定めています。
大型ビルの貸主には、上場している不動産投資法人(J-REIT)も多くあります。たとえばジャパンリアルエステイト投資法人は、2026年3月末時点で約586億円の敷金・保証金をテナントから預かっています。同法人は有価証券報告書で、テナントの財務状況が悪化した場合に、延滞した賃料や原状回復費用などの合計が敷金・保証金で担保される範囲を超えるおそれがあることをリスクとして挙げています。敷金を厚めに預かり、入居前の審査で支払い能力を確かめるのは、こうした損失を避けるためです。
審査で見られる主な項目
審査の項目は貸主によって違いますが、一般的には、信用調査会社の評価、決算書の内容、オフィスの使い方と業種、連帯保証人や保証会社の有無、会社の将来性といった点を総合して判断します。項目ごとの考え方は【オフィス移転】入居審査の基準とは?チェックされる5つの項目教えます!で紹介しています。
申し込みのときには、会社の概要がわかる資料、決算書、登記事項証明書などの提出を求められるのが一般的です。決算書では、売上と利益の推移、自己資本、手元の現預金などから、月額の賃料に対して十分な体力があるかが見られます。ハイグレードビルは月額の賃料が大きいぶん、同じ決算書でも求められる体力の水準は高くなります。
設立から日が浅い会社・赤字の会社がつまずきやすいところ
設立から日が浅く決算が確定していない会社や、先行投資で赤字が続いている会社は、決算書だけでは支払い能力を示しにくくなります。その場合は、事業計画や資金調達の状況、預金残高などの資料で補うことになります。
それでも貸主が不安を残すときは、敷金の積み増しや、連帯保証人・保証会社の利用を条件に出されることがあります。敷金を積み増せば審査は通りやすくなりますが、その分だけ手元の資金が減ります。成長のために資金を使いたい時期の会社ほど、この条件は重くなります。
敷金・保証金は賃料の何ヶ月分か
高層ビルの募集区画は12ヶ月分が9割近く
Growth Officeに掲載中の東京都の募集区画(2026年9月26日時点)を、ビルの階数ごとに集計しました。地上20階以上のビル111棟・412区画のうち、敷金の月数がわかる212区画では、187区画(88%)が賃料の12ヶ月分でした。10〜19階のビルでは12ヶ月以上が32%、9階以下のビルでは25%です。

地上20階以上のビルでも、50坪以上の区画にかぎると、敷金の月数がわかる168区画のうち164区画が12ヶ月分でした。規模の大きい区画ほど、12ヶ月分がほぼ決まった条件になっていると考えてよいでしょう。一方で、30坪未満の小さな区画には6ヶ月以下のものもあり、同じビルの中でも区画の広さによって条件が変わります。
100坪なら敷金だけで約4,591万円
Aクラスビルの成約賃料(1坪あたり38,259円・共益費を除く)の区画を100坪借りる場合の、入居時にかかる主な費用は次のとおりです。
| 費用 | 計算 | 金額 |
|---|
| 敷金 | 賃料の12ヶ月分 | 約4,591万円 |
| 前払い賃料 | 賃料の1ヶ月分 | 約383万円 |
| 仲介手数料(上限) | 賃料の1ヶ月分の1.1倍 | 約421万円 |
| 合計 | | 約5,395万円 |

仲介手数料は、国土交通省の告示で、貸主と借主から受け取る合計額が賃料の1ヶ月分の1.1倍(消費税を含む)以内と決められています。表では借主がその上限まで負担した場合を示しました。この3項目の合計のうち、敷金が8割以上を占めます。実際にはこのほかに共益費、内装工事費、引越し費用もかかりますが、ハイグレードビルへの移転では、敷金をどう用意するかが資金計画の中心になります。
敷金と保証金に違いはあるか
オフィスの契約書では「敷金」と書かれることも「保証金」と書かれることもあります。民法の定義は「いかなる名目によるかを問わず」としているため、賃料などの支払いを担保する目的で預けるお金であれば、呼び方が保証金でも法律上は敷金として扱われます。
気をつけたいのは、退去のときに一定額を差し引く「償却」の定めです。償却がある契約では、預けた金額の一部は返ってきません。償却の会計処理と税務は敷金の会計処理|償却・勘定科目・仕訳・消費税を国税庁の規定で整理で解説しています。
預けた敷金は、退去して明け渡すまで戻らない
民法第622条の2は、敷金を返す時期を、賃貸借が終わり、貸主が物件の返還を受けたときと定めています。返ってくるのは、未払いの賃料などがあればそれを差し引いた残りです。5年間入居するなら、約4,591万円の敷金は5年以上、会社の手元を離れたままになります。
会計上、預けた敷金は費用にならず、「差入保証金」として資産に計上されます。利益には影響しなくても、現金が固定されることに変わりはありません。2027年4月1日以後に始まる事業年度から強制適用される新リース会計基準では、オフィスの賃貸借契約も貸借対照表に載るようになり、財務の見え方が変わります。詳しくは新リース会計基準の変更点は?2027年適用の改正点と実務対応を徹底解説をご覧ください。