新しいビルの供給と、入居の動き
三幸エステートの「オフィスマーケット調査月報 東京都心5区」によると、都心5区の新規供給(その年に竣工した新築ビルの貸付面積)は、2024年が12万2,589坪、2025年が16万9,884坪で、2026年は1月から9月までで16万1,569坪でした。

入居済みの面積の増減を表すネット・アブソープション(吸収需要)は、どの年も新規供給を上回っています。新しいビルの面積以上に入居が増えたため、都心5区の空室率は、2024年1月の5.10%から、2026年10月には1.48%まで下がりました。
ただし、2026年1月から9月までの吸収需要は21万4,999坪で、前年の同じ期間(36万8,436坪)より15万3,437坪少なくなっています。新規供給は前年の同じ期間とほぼ同じ水準のため、供給に対する入居の増え方は、前年より小さくなっています。
既存のビルの空室は、いまは減っている側です。竣工から1年以上たったビルの募集中の面積は、2024年1月の65万8,646坪から、2026年1月に34万4,128坪、10月には28万8,288坪まで減りました。
建築中のビルの募集は増えている
10月1日時点で都心5区で募集中の面積44万9,165坪のうち、建築中のビルの面積は13万6,846坪(38棟)で、全体の30.5%を占めます。前月より21.6%増えました。
そのうち、竣工が1年以上先のビルの面積は、前月の9万2,939坪から11万8,504坪に増えています。新しいビルは、竣工のかなり前から募集を始めます。既存のビルの区画は、竣工の前から、これらの区画と比べられることがあります。
9月に竣工した大規模ビルは、竣工の時点でほぼ成約していた
2026年9月に竣工した都心5区の大規模ビル2棟(貸付面積4万4,017坪)は、竣工の時点で未成約の面積が1,791坪で、竣工時点の空室率は4.07%でした。竣工の前の募集で、面積の多くが成約していたことになります。
新しいビルに移る会社は、竣工の1年以上前から移転を決めていることがあります。既存のビルにとっては、竣工の前後に、移っていく会社の退去の予告が届くことがあります。
二次空室:新しいビルに移った会社の跡
二次空室は、新しいビルに移った会社が、もとのビルに残す空室です。新しいビルの竣工から、もとのビルの退去までには、内装の工事と引っ越しの期間があり、退去の予告もその前に届きます。そのため二次空室は、竣工の時期から少し遅れて、既存のビルに出てきます。流れの例は次のとおりです(時期はビルと会社によって違います)。
| 時期 | 新しいビル | 既存のビル |
|---|
| 竣工の1年以上前 | 募集を始め、成約が進む | 移転を考えるテナントが、新しいビルを内見する |
| 竣工の前 | 成約した会社が内装の計画を進める | 移るテナントと、退去の時期の話が始まる |
| 竣工の前後 | 竣工し、内装の工事が始まる | 退去の予告が届き、次の募集を始める |
| 竣工の数か月後 | 内装の工事を終えた会社から入居する | 退去と原状回復のあと、区画が空室になる(二次空室) |
退去の予告の期間は契約によって違い、オフィスでは6か月前の予告を定めることが多く見られます。予告が届いたら、退去を待たずに次の募集を始めることが、二次空室の期間を短くします。段取りは「テナントから解約予告が届いたら」で説明しています。
大きなテナントの移転ほど、影響は大きい
1社で1フロアや1棟を借りている大きなテナントが新しいビルに移ると、まとまった面積が一度に空きます。大きな区画は借りる会社の数が限られるため、区画を分けて貸すかどうかも含めて考えます。進め方は「大口テナントが退去するとき」で説明しています。
新しいビルと既存のビルの、募集条件の違い
東京で募集中のオフィスの空室を、建物の建築年ごとに比べました。新しいビルほど坪単価は高く、2020年以降のビルでは、内装付きの区画が3割を超えます。
| 建築年 | 区画数 | 坪単価(中央値) | 敷金(中央値) | 内装付き | すぐ入居 |
|---|
| 1981年以前 | 605 | 1万7,200円(119) | 8か月分 | 3.1% | 53.2% |
| 1982〜1999年 | 1,697 | 1万8,000円(347) | 8か月分 | 12.7% | 52.1% |
| 2000〜2009年 | 320 | 2万3,900円(64) | 12か月分 | 9.7% | 45.0% |
| 2010〜2019年 | 195 | 2万円(29) | 12か月分 | 8.2% | 32.8% |
| 2020〜2025年 | 304 | 2万8,100円(67) | 8か月分 | 31.9% | 54.6% |
| 2026年以降(竣工予定を含む) | 284 | 3万6,200円(62) | 8か月分 | 32.7% | 32.4% |
坪単価のかっこ内は、坪単価を集計した区画の数です。「すぐ入居」は、即入居か、入居の日付が10月までの区画の割合です。2010〜2019年は、坪単価を集計した区画が29と少ないため、坪単価の中央値は参考の値です。2026年以降の坪単価は、17棟(都心5区の中は14棟)の区画から集計しています。
新しいビルは、都心3区に集まっている
2026年以降に竣工する(した)ビルの区画284区画(53棟)のうち、中央区が74区画、港区が72区画、千代田区が61区画で、この3区で7割を占めます。渋谷区が28区画、新宿区が19区画、品川区が16区画で続きます。
自分のビルの近くで新しいビルの募集が始まっていないかは、仲介会社への聞き取りや、建築中のビルの工事の看板などで確かめられます。新しいビルの竣工の時期と募集する面積を早めに知っておくと、今のテナントの更新の時期と照らし合わせて、備えを始められます。
既存のビルが比べられる点
新しいビルと既存のビルは、坪単価が大きく違うため、新しいビルと直接比べられるのは、予算の合う一部の会社です。多くの既存のビルにとっては、新しいビルに移った会社が周りの既存のビルに残した二次空室が、同じ予算の会社を取り合う相手になります。新しいビルに移った会社の跡に別の会社が移り、その会社の跡がまた空く、という形で、移転は順につながっていきます。
既存のビルを選ぶ会社は、賃料のほかに、入居までの初期費用、内装の工事の要否、入居できる時期、建物の耐震と設備の状態を比べます。既存のビルは、坪単価の差を前提に、これらの条件で選ばれる区画にしておくことが大切です。
区画の広さにも違いがあります。2026年以降に竣工する(した)ビルの区画は、50坪未満が32.0%で、広さの中央値は72.2坪でした。1999年以前に建てられたビルでは、50坪未満が52.8%、中央値は45.8坪です。50坪未満の小さめの区画を探す会社にとっては、既存のビルのほうが候補が多いことになります。
一方、敷金の月数の中央値は、2020年以降のビルも1999年以前のビルも8か月分で、大きな差はありません。初期費用で差をつけるには、敷金の月数を同じ広さの周りの区画より軽くするか、敷金の一部を保証に置き換える方法を考えます。