新リース会計基準の変更点は?2027年適用の改正点と実務対応を徹底解説
2024年9月、企業会計基準委員会(ASBJ)から新リース会計基準が公表され、2027年4月からの強制適用が決定しました。この改正により、これまでオフバランス処理が認められていたオペレーティングリースも含め、原則としてすべてのリース取引がオンバランス化されることになります。経理部門の責任者や実務担当者の方々は、財務諸表への影響や実務対応について早めの準備が求められます。
本記事では、新基準の変更点から具体的な対応策まで、企業が取るべきアクションを時系列で解説していきます。2027年に改正されるリース会計基準の内容をしっかりとおさえておきましょう。
■なぜ今リース会計基準の改正が必要になったのか
国際財務報告基準(IFRS)が2016年に新しいリース会計基準「IFRS第16号」を公表したことが、日本における改正の大きなきっかけとなりました。
これまで日本基準では、中途解約が困難で購入に近い形態の「ファイナンスリース」のみを資産計上の対象としてきましたが、国際的な会計基準との整合性を保つ必要が生じたのです。実際の経済的実態をより適切に反映させるため、ASBJは長年の議論を経て新基準を策定しました。
新基準の導入によって、財務諸表の透明性が向上し、企業間の比較可能性も高まることが期待されています。この改正は、グローバルな会計基準の潮流に日本が対応するための重要なステップと位置付けられます。
■新リース会計基準での6つの重要な変更点
新リース会計基準における変更点は、企業の財務報告に大きな影響を及ぼすものとなっています。従来の会計基準から大幅に見直された主要なポイントについて、具体的な内容と実務への影響を解説していきます。
①簿外リース取引が全てオンバランス化へ変更
従来のリース会計基準では、オペレーティングリースは貸借対照表に計上する必要がありませんでした。しかし新基準の導入により、企業は賃借しているオフィスや店舗、工場などの賃貸借契約も含めて、すべてのリース取引を資産および負債として計上することが求められます。この変更は企業の財務諸表に大きな影響を与えることになり、特に多店舗展開する小売業や、大規模なオフィスを借りているサービス業では、貸借対照表の資産・負債が大幅に増加することが予想されます。実務担当者は、保有する賃貸借契約を全て洗い出し、新基準に沿った会計処理の準備を進める必要があるでしょう。
②リース期間の算定基準が延長オプション含みへ変更
リース期間の考え方が新基準では大きく変更されることになります。具体的には、解約不能期間に加えて、リース期間を延長するオプションの行使が合理的に確実な場合、その延長期間もリース期間に含める必要があります。例えば、店舗の賃貸借契約で当初契約期間が5年、更新オプションが5年ある場合、更新する可能性が高いと判断されれば、リース期間は10年として使用権資産とリース負債を計算することになります。企業の実務担当者は、個々の契約における更新可能性を慎重に評価し、定期的な見直しプロセスを確立する必要があるでしょう。また、この変更により契約更新の判断がより重要性を増すため、不動産部門と経理部門の連携強化も求められます。更新の判断基準や評価プロセスを明確化し、社内での意思決定フローを整備することも重要な課題となってくるはずです。
③重要性の判断基準が300万円以下のリースへ変更
新基準では、重要性が乏しいと判断されるリース取引についての基準が明確化されました。具体的には、リース料総額が300万円以下のリースについては、オンバランス処理を行わない簡便的な取扱いが認められています。この基準により、コピー機やパソコンなどの少額リースについては、従来通りの会計処理を継続できることになります。企業にとっては、重要性の判断基準が明確になったことで、実務上の負担を軽減しつつ、重要な取引に注力できる環境が整備されたと言えます。新基準への移行準備において、まずは保有するリース契約を金額別に整理し、簡便的な取扱いが適用可能な契約を特定することが、効率的な実務対応の第一歩となるでしょう。
④使用権資産とリース負債の分離計上が必須に
新基準では、リース契約に基づく使用権資産とリース負債を明確に区分して計上することが必要になります。使用権資産は無形資産として扱われ、リース負債は将来の支払いに対する金利を伴う債務として認識することになりました。この分離計上により、財務諸表上の透明性は向上する一方で、実務担当者には複雑な計算や仕訳処理が求められることになります。特に、使用権資産の減価償却方法やリース負債に係る金利の計算など、新たな実務対応が必要となるでしょう。企業は早急に経理システムの改修や担当者の教育体制を整備し、新基準に対応した会計処理の準備を進めていく必要があります。
⑤リース料の計算方法が現在価値方式へ変更
新リース会計基準において、リース負債の算定方法が大きく変更されます。企業は将来支払うリース料を現在価値に割り引いて計算する必要があり、この割引率の設定が実務上の重要なポイントとなります。適用する割引率は、リース契約の条件や企業の信用力などを考慮して個別に判断することが求められます。また、契約内容の変更や見直しが発生した場合には、その都度、割引率を再評価する必要があるため、実務担当者には継続的なモニタリングと計算の正確性が求められます。特に多数の賃貸借契約を保有する企業では、システム化による効率的な管理体制の構築が不可欠となるでしょう。
⑥費用計上のタイミングが前倒しへ変更
新基準では、これまで一括計上されていたリース費用を、リース負債に対する利息費用と使用権資産に対する減価償却費に分けて計上することが求められます。この変更により、特に契約期間の初期段階では利息費用の割合が高くなるため、従来と比べて費用計上が前倒しになる傾向があります。企業の財務担当者は、この費用認識パターンの変化が損益計算書に与える影響を事前に分析し、予算管理や業績予測に反映させる必要があります。また、社内の関係部門や投資家に対しても、この変更による影響を丁寧に説明することが求められるでしょう。
■新基準で大きく変わる重要取引の会計処理
新リース会計基準では、従来の会計処理から大きく変更される取引が複数存在します。企業の財務報告に重要な影響を与える可能性のある主要な取引について、その変更点と実務上の留意事項を解説していきます。
敷金・保証金の新たな会計処理方法
新基準では、敷金・保証金の会計処理方法が大きく見直されることになります。従来は支払時に一括して資産計上していた敷金・保証金について、返還時期が長期にわたる場合は、現在価値への割引計算が必要となる可能性があります。この変更により、敷金を時間の経過とともに償却原価で測定し、毎期利息相当額を認識する必要が生じます。特に店舗やオフィスの賃貸借で高額な敷金を預けている企業では、財務諸表への影響が大きくなることが予想されるため、早めの対応が求められます。
サブリース取引の取り扱いの変更点
サブリース取引における会計処理も大きく変更されます。新基準では、借手としてのリース(ヘッドリース)と貸手としてのリース(サブリース)を、それぞれ別個の取引として会計処理することが原則となります。不動産の転貸借を行っている企業は、ヘッドリースとサブリースの両方について使用権資産とリース負債を計上する必要があり、これまで以上に複雑な会計処理が求められることになるでしょう。また、サブリース期間とヘッドリース期間の関係性にも注意を払う必要があります。
セール・アンド・リースバック取引の処理方法
セール・アンド・リースバック取引について、新基準では売却の認識要件が厳格化されます。資産を売却した後に賃借する場合、その取引が実質的な売却として認められるかどうかの判断基準が明確になりました。売却が認められる場合でも、売却益は使用権の残存部分に相当する金額を繰り延べる必要があり、リース期間にわたって按分して認識することになります。このため、資金調達手段としてセール・アンド・リースバック取引を活用している企業は、財務諸表への影響を慎重に検討する必要があるでしょう。
契約条件変更時の会計処理
新基準では、リース契約の条件変更が行われた際の会計処理についても、詳細な規定が設けられました。リース期間の延長や短縮、リース料の変更などが行われた場合、その内容に応じて使用権資産とリース負債の再測定が必要となります。特に、リース期間の見直しや賃料改定が頻繁に発生する不動産賃貸借では、契約条件の変更に伴う会計処理の負担が増加することが予想されます。このため企業は、契約条件の変更を適時に把握し、適切に会計処理を行うための体制整備が重要となってきます。
■企業経営に与える影響と課題
新リース会計基準の導入は、企業の財務諸表や経営指標に大きな影響を及ぼすことが予想されます。具体的な影響と対応すべき課題について、主要な観点から解説していきます。
財務諸表への具体的な影響
新基準の適用により、貸借対照表上の資産・負債が大幅に増加することになります。これまでオフバランス処理されていたオペレーティングリースが資産・負債として計上されることで、特に多数の不動産賃貸借契約を持つ企業では、総資産が数十パーセント増加するケースも想定されます。また、損益計算書では従来の支払リース料が、使用権資産の減価償却費と支払利息に区分して計上されることになり、費用認識のタイミングも変化します。これにより、特に契約開始時期の費用負担が増加する傾向となることから、業績予測への影響も考慮する必要があります。
経営指標の変動とその分析方法
資産・負債の増加は、ROA(総資産利益率)や自己資本比率など、主要な経営指標に直接的な影響を与えることになります。特に自己資本比率は、分母となる総資産の増加により低下する可能性が高く、財務制限条項への抵触リスクも懸念されます。また、EBITDAについても、従来のリース料が使用権資産の減価償却費と支払利息に分解されることで、計算方法の見直しが必要となるでしょう。企業は、これらの指標変動を事前に把握し、取引先や金融機関への適切な説明準備を進める必要があります。
開示要件の拡大による負担増
新基準では、リース取引に関する開示要件が大幅に拡充されます。具体的には、使用権資産の種類別内訳、リース負債の満期分析、変動リース料の内容、さらには重要な判断や見積りに関する情報など、これまで以上に詳細な開示が求められることになりました。特に注記事項の充実が図られ、リース取引の実態をより正確に把握するための情報提供が必要となります。このため企業は、必要なデータを適時に収集・集計できる体制を整備し、開示要件に対応するための実務プロセスを確立する必要があるでしょう。また、四半期報告における開示負担も考慮に入れた準備が重要です。
■新基準対応で企業が取るべき対策・アクション
2027年の適用開始に向けて、企業は計画的な準備を進める必要があります。新基準への対応は、単なる会計処理の変更にとどまらず、業務プロセスやシステムの見直し、さらには契約管理体制の整備など、広範な取り組みが求められます。以下では、企業が優先的に取り組むべき具体的なアクションについて解説していきます。
既存契約の棚卸と影響度の試算方法
新基準への対応における最初のステップは、既存のリース契約の全体像を把握することです。企業は、本社や支店、店舗などで締結している賃貸借契約やリース契約を漏れなく特定し、契約内容を精査する必要があります。特に、契約期間や更新オプションの有無、解約条項の内容、リース料の改定条件など、新基準で重要となる要素を詳細に確認することが重要です。また、これらの契約に基づいて財務諸表への影響額を試算し、経営指標への影響度を評価する必要があるでしょう。
社内体制の整備と人員教育の進め方
新基準への対応は、経理部門だけでなく、総務部門や各事業部門を含めた全社的な取り組みが必要となります。まず、プロジェクトチームを編成し、部門横断的な推進体制を構築することが重要です。特に、契約管理部門と経理部門の連携は不可欠で、新規契約の締結から会計処理までの一連のプロセスを整備する必要があります。また、担当者向けの研修プログラムを実施し、新基準の概要や具体的な実務手順について理解を深めることも重要です。さらに、外部の専門家を活用した実践的なトレーニングの実施も効果的でしょう。
会計方針の見直しポイント
新基準への移行にあたり、企業は自社の会計方針を慎重に検討し、文書化する必要があります。特に、リース期間の判定基準、重要性の判断基準、割引率の算定方法など、企業の判断が必要となる項目については、明確な基準を設定することが求められます。また、グループ会社がある場合は、グループ全体での会計方針の統一も重要な課題となります。これらの会計方針は、監査法人との事前協議を行い、適切性の確認を得ておくことが望ましいでしょう。将来の制度変更にも柔軟に対応できる体制づくりを意識することが大切です。
システム改修の具体的な検討事項
既存の会計システムやリース管理システムは、新基準に対応するための大幅な改修が必要となる可能性が高いでしょう。具体的には、使用権資産とリース負債の計算機能、割引現在価値の算定機能、開示資料の作成支援機能などが必要となります。また、契約管理システムとの連携も重要で、契約変更があった場合の会計処理を自動的に反映できる仕組みの構築が求められます。システム改修には相応の時間とコストがかかるため、早期に計画を立て、十分なテスト期間を確保することが重要となるでしょう。
■業種別の具体的な対応策
新リース会計基準の影響は、業種によって大きく異なります。各業種特有の事情を踏まえた効果的な対応が求められるため、業種別の具体的な対応策について解説していきます。
小売業が優先して取り組むべき実務対応
小売業では、多店舗展開に伴う店舗賃貸借契約が新基準の主な対象となります。特に、商業施設内のテナント契約や路面店の賃貸借契約について、固定賃料部分と売上歩合賃料部分を適切に区分し、オンバランス対象を特定する必要があります。また、契約更新オプションの行使可能性を評価する際には、店舗の売上実績や将来性、出退店計画との整合性を考慮することが重要です。さらに、建設協力金や保証金などの返還条件についても、新基準に基づく適切な会計処理が求められます。
不動産業における契約見直しの進め方
不動産業では、サブリース事業に対する影響が特に大きくなります。ヘッドリースとサブリースを別個の取引として会計処理する必要があるため、両者の契約条件の整合性を見直す必要があるでしょう。また、定期借地権や借地権などの長期の土地賃借についても、新基準に基づく会計処理の検討が必要となります。賃貸借契約書の様式見直しや、テナントとの契約交渉における新たな実務指針の策定なども重要な課題となってきます。
製造業での管理体制構築のポイント
製造業では、工場設備や生産用機械のリース取引が新基準の主な対象となります。これらの設備は高額かつ長期の契約が多いため、財務諸表への影響が大きくなる可能性があります。特に、生産ラインの一部として組み込まれている機械設備について、リース取引の特定と契約範囲の判定が重要となってきます。また、メンテナンス契約が付帯している場合は、リース要素と非リース要素を適切に区分する必要があります。さらに、グローバルに展開する企業では、各国の契約慣行の違いも考慮した管理体制の構築が求められるでしょう。
■導入までのロードマップと実務スケジュール
2027年4月の新基準適用開始まで、限られた時間で効率的に準備を進める必要があります。企業規模や業態によって必要な対応は異なりますが、計画的な準備が不可欠です。以下では、時期別に取り組むべき主要なタスクについて解説していきます。
2024年度に着手すべき準備作業
2024年度は、新基準対応の土台となる準備作業に着手する重要な時期となります。まず、プロジェクトチームを発足し、社内の推進体制を確立することから始めましょう。並行して、既存のリース契約の棚卸作業を進め、影響度分析の準備を行います。また、会計方針の検討や文書化にも着手し、監査法人との協議を開始することが望ましいでしょう。システム対応については、要件定義フェーズから開始し、ベンダーの選定や概算予算の策定を進める必要があります。
2025-26年度の移行準備と整備事項
2025年度から2026年度は、新基準適用に向けた本格的な移行準備期間となります。会計方針の詳細な検討結果に基づき、具体的な業務フローやマニュアルの整備を進めていく必要があります。システム面では、開発・テスト・データ移行といった作業を段階的に実施し、2026年度中には平行稼働テストを開始することが望ましいでしょう。また、この期間中に実務担当者への研修を本格化させ、新基準に基づく会計処理の習熟度を高めることも重要です。特に比較年度となる2026年度は、新旧両基準での数値管理が必要となってきます。
2027年度の本適用に向けた最終確認事項
2027年度の新基準適用直前期には、それまでの準備作業の総仕上げを行う必要があります。特に重要なのが、移行時の会計処理の最終確認です。期首残高の調整や比較情報の作成、開示項目の網羅性チェックなど、細かな実務事項の確認が必要となります。また、新基準適用後の実務運用体制の最終確認も重要です。想定外の事象が発生した場合の対応手順や、グループ会社との連携方法なども含めて、運用体制の実効性を検証しておく必要があるでしょう。
■まとめ|新リース会計基準への対応は2027年までに万全な準備を
新リース会計基準への対応は、単なる会計基準の変更以上に、企業経営に大きな影響を与える改革となります。2027年4月の適用開始まで、残された時間は決して長くありません。経理部門だけでなく、総務部門や事業部門を含めた全社的な取り組みが必要となるでしょう。特に、既存契約の見直しやシステム対応には相応の時間を要するため、計画的な準備が不可欠です。また、財務諸表への影響度を早期に把握し、必要に応じて事業戦略の見直しも検討する必要があります。新基準への対応を、単なるコンプライアンス対応としてではなく、経営管理体制の強化につなげる好機として捉えることが重要です。