履行保証とは?公共工事における仕組みとメリットを解説

本記事では、建設工事や不動産取引に携わる事業者の方々に向けて、履行保証の仕組みについて詳しく解説します。公共工事と民間工事での違いや、金銭的保証と役務的保証の選び方など、実務に即した内容を説明していきます。また、履行保証保険と履行ボンドの違いや具体的な申込手続きの流れまで、実践的な情報を網羅しています。工事の受注を検討している事業者や、保証について理解を深めたい方は、ぜひ参考にしてください。

履行保証とは?

履行保証は、工事や契約の確実な履行を担保する制度です。請負者が契約上の義務を果たせない場合に、保証人が工事の完成や損害の補填を約束する仕組みといえるでしょう。公共工事では原則として必須とされており、発注者の利益を保護する重要な役割を担っています。民間工事でも、大規模な建設プロジェクトなどで活用されることが増えています。保証の方法には金銭的保証と役務的保証があり、工事の規模や性質に応じて適切な方法を選択することが重要です。保証金額は通常、請負金額の10%~30%程度に設定されることが一般的となっています。

金銭的保証と役務的保証の違い

履行保証には金銭的保証と役務的保証という2つの方式があります。それぞれの特徴を理解し、工事の内容に応じて適切な方式を選択することが重要です。

金銭的保証

金銭的保証は、契約不履行が発生した際に金銭での補償を行う方式です。工事が完成できない場合や契約違反が起きた際、保証人が発注者に対して一定額を支払うことを約束します。この方式は手続きが比較的シンプルで、保証金額が明確なことが特徴となっています。一般的に履行保証保険や保証金の預託などがこれにあたり、保証金額は契約金額の一定割合として設定されます。発注者にとっては確実な補償が得られる一方、工事の完成そのものを保証するものではない点に注意が必要です。公共工事における契約保証金や履行保証保険による保証は、この金銭的保証の代表的な例といえるでしょう。

役務的保証

役務的保証は、契約不履行が発生した際に保証人が工事を完成させることを約束する方式です。金銭的な補償だけでなく、実際の工事の完成まで保証するため、発注者にとってより手厚い保証といえます。履行ボンドや銀行保証などがこの方式に該当し、保証人には工事を完成させる能力や体制が求められます。ただし、保証人の審査が厳格になる傾向があり、手続きも金銭的保証と比べて複雑になりやすいという特徴があります。特に重要な公共施設や大規模な建築工事など、確実な工事完成が求められるケースで採用されることが多いでしょう。

履行保証における公共工事・民間工事の違い

公共工事と民間工事では、履行保証の取り扱いが大きく異なります。公共工事では法令に基づく義務付けがある一方、民間工事では当事者間の合意により保証の要否や方法が決定されます。それぞれの特徴について詳しく見ていきましょう。

公共工事

公共工事における履行保証は、会計法や地方自治法に基づく義務として位置づけられています。工事請負契約を締結する際、原則として請負代金額の10%以上の契約保証金が必要となります。ただし、履行保証保険や履行ボンドに加入することで、この保証金の納付を免除されることも可能です。保証の範囲は工事完成までの履行が対象となり、瑕疵担保責任や保守管理は含まれないのが一般的です。また、工期の延長や設計変更があった場合には、保証期間の延長手続きが必要となるため、工程管理との連動が重要になってきます。

民間工事

民間工事の履行保証は、当事者間の契約自由の原則に基づいて設定されます。工事の規模や重要性に応じて、保証の要否や保証金額、保証方法を柔軟に決定することができます。大規模な商業施設や高層ビルなど、重要性の高い工事では公共工事に準じた保証が求められることもありますが、中小規模の工事では保証を求めないケースも多くみられます。保証範囲についても当事者間の協議により設定が可能で、瑕疵担保責任や保守管理まで含めた広範な保証を設定することもできます。工事の特性や発注者のニーズに応じて、最適な保証内容を選択することが重要です。

履行保証保険と履行ボンドの違い

履行保証保険は保険会社との契約により金銭的な保証を得る方法であり、一方の履行ボンドは保証会社が工事完成そのものを保証する方式です。両者にはそれぞれ特徴があり、工事の性質や規模によって使い分けられています。履行保証保険では、工事が完成できない場合に保険金という形で金銭的な補償が行われます。支払方法には実額てん補契約と実損てん補契約の2種類があり、契約時に選択することができます。これに対し履行ボンドでは、工事が完成できない場合に保証会社自身が施工業者を選定して工事を完成させる役割を担います。保証料は履行保証保険の方が一般的に安価ですが、工事の確実な完成を重視する場合は履行ボンドが選ばれる傾向にあります。また、履行保証保険は比較的手続きがシンプルである一方、履行ボンドは保証会社の審査基準が厳格になる特徴があります。

履行保証の申込手続きの流れ

履行保証を利用するためには、一定の手順に従って申込手続きを進める必要があります。手続きは保証会社の選定から始まり、最終的な契約締結まで複数のステップを経ることになります。それぞれの段階について具体的な内容を説明していきましょう。

保証会社の選定と見積り依頼

保証会社の選定は、履行保証を受ける上で最初の重要なステップとなります。保証料率や保証条件は各社で異なるため、複数の会社に見積りを依頼して比較検討することが賢明です。大手損害保険会社や専門の保証会社など、様々な選択肢がありますが、工事の規模や特性に応じた保証サービスを提供できる会社を選ぶことが重要です。見積り依頼の際には、工事の概要や請負金額、工期などの基本情報を提供し、具体的な保証料や保証条件の提示を受けます。実績や信用力も重要な判断材料となるでしょう。

事前審査と与信枠の確認

保証会社を選定後、事前審査を受けて与信枠の確認を行います。審査では企業の財務状況や工事実績、経営者の信用情報などが確認されます。特に決算書の内容は重要な審査項目となり、直近数年分の提出が求められるのが一般的です。また、既存の保証残高や借入状況なども確認され、新規の保証が可能か判断されます。事前審査の結果により与信枠が設定され、これが保証可能な金額の上限となります。

必要書類の準備と提出

与信枠が確認できたら、具体的な契約に向けた書類の準備に入ります。必要書類には工事請負契約書の写しや工事概要書、工程表などの工事関連書類に加え、企業の登記簿謄本や決算書、会社概要書などの基本書類が含まれます。書類は正確に漏れなく準備する必要があり、不備があると手続きが遅延する原因となります。特に工事内容に関する書類は、保証の対象範囲を明確にする重要な資料となるため、詳細な情報を記載することが求められます。

保証契約の締結

全ての書類が整い審査に通過すると、いよいよ保証契約の締結段階となります。契約書の内容を確認し、保証料の支払いを行うことで保証が開始されます。契約書には保証金額や保証期間、保証条件などの重要事項が記載されており、内容を十分に確認することが重要です。特に保証期間は工期と整合性を取る必要があり、工期が延長された場合の手続きについても確認しておくことが望ましいでしょう。

契約時の重要な注意点

履行保証の契約には、いくつかの重要な注意点があります。保証金額が工事請負金額に対して適切な水準に設定されているか、保証期間が工期と正しく連動しているかなど、確認すべきポイントは多岐にわたります。また、工期の延長や設計変更が発生した際の手続きについても、事前に確認しておく必要があるでしょう。保証の範囲についても明確に確認が必要です。特に瑕疵担保責任や保守管理業務が含まれるかどうかは、契約書の内容を詳細に確認することが重要です。さらに、保証料の支払方法や、保証開始のタイミング、契約解除の条件なども、トラブル防止のために慎重に確認すべき事項となっています。

まとめ

履行保証は工事の確実な履行を担保する重要な制度です。金銭的保証と役務的保証の2つの方式があり、工事の特性に応じて選択する必要があります。公共工事では法令により義務付けられていますが、民間工事では当事者間の合意により柔軟に設定することが可能です。履行保証保険と履行ボンドはそれぞれ特徴が異なり、工事の規模や重要性に応じて使い分けることが重要です。申込手続きは保証会社の選定から始まり、審査、契約締結まで段階的に進めていきます。契約時には保証金額や保証期間、保証範囲などの重要事項を慎重に確認することで、より安全な契約履行が実現できるでしょう。

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