Arithmer株式会社
常務取締役 兼 CFO(公認会計士) 乾 隆一 様
『敷金半額くん』の活用と、増資による資金調達のセットで資金計画を組みました。
2016年に東京大学大学院数理科学研究科から生まれたAIスタートアップ。
世界トップクラスの研究開発力を武器に、言語、画像、動画など多岐に渡る領域でAI事業を展開している。
そんな同社に今後の事業展開と今回「敷金半額くん」の利用に至った理由をお聞きした。
Q:御社の事業内容についてお教えいただけますでしょうか?
当社はAIを活用したデータ解析事業を展開しています。
7つのサービスがあり、紙文書や画像文書をテキスト化するOCRサービス、チャットボットやTwitterを対象とした自然言語解析、画像解析、3Dモデリングなど、AIによる解析技術をもととして多岐に渡るサービスを展開しています。
具体的な事例として、画像解析の領域では紳士服製造販売のコナカ様との提携事業にて「AIによる画像採寸アプリ」を開発しています。これは4方向から対象人物を撮影した画像データから採寸できるというアプリで、このアプリを使えば1cm単位の精緻な採寸データが必要なスーツやYシャツの採寸を画像データから起こせます。
仕組みとしては、幾何学の「トポロジー」を使って、2次元の画像をもとに3次元の形状を推定しています。
Q:多岐に渡りAI事業を展開されているんですね。AI事業を始めたきっかけなんでしょうか?
今もそうですが、代表の大田は東京大学大学院数理学科の教授を務めています。
東大発のベンチャー企業は300社以上あるそうなんですが、当社が創業した2016年頃は、数理学科から生まれたベンチャー企業はまだありませんでした。大田は大学院の修士課程を修了後、IBMや日立製作所といった民間企業にてAI分野の研究職を経て、東京大学に戻り博士号を取得しています。
そのような経験から「数学がベースとなるAI技術で、仕事の効率化や人の役に立つ成果を生み出したい」という大田の思いによって、Arithmerは生まれました。
Q:競合他社との違いや、差別化しているポイントはどういったところにありますか?
例えば、弊社の現在の主力サービスであるOCRの分野で、パッケージ製品を販売している企業がありますが、パッケージ製品の場合、最初からある程度の読取精度が出せるという汎用性がある一方、パッケージ化されていることによりお客様ごとのデータの特性に応じて精度をさらに上げていくということが難しいケースがあります。
当社の場合、個々のお客様のデータ特性に応じた対応をしていますので、データが集積していくことでより読取精度を向上させることができます。
また先程ご紹介したコナカ様の事例のように、OCR以外の領域でも独自の技術力を活用してお客様のニーズに対応できるサービスを展開しています。これらは基礎的な技術力があるからこそできる開発であり、そういった取り組みで得られた知見は特許などにより保護することで差別化を図っています。
Q:独自の高い技術力があること、またしっかりパテントを押さえて知見を蓄積していくことが強みなんですね。御社はエンジニアの方が非常に多いと聞いています。
それが当社の強みの源泉ですね。他社では関連会社であったり外部委託であったり、海外含めて他社のエンジニアを使われているケースが珍しくありませんが、当社はできるだけお客様に近いところで開発することを重視しています。
現在(2020年3月時点)、社員数は約100名ですが、うち70名近くがエンジニアです。
日本人以外にもイタリアやフランス、韓国など海外出身のエンジニアが多数いますが、基本的には日本国内の拠点で、また何かあったらすぐ連絡が取れる体制で開発しています。内製化できる体制は当社の大きな強みだと考えています。
Q:今後の事業計画、将来展望についてお聞かせください。
まず今ある7つのサービス、これをそれぞれ伸ばしていきます。
売上も倍々かそれ以上のスピード感をもって伸ばしていきたいですね。
また現在は日本でしか事業を展開していませんが、一部の部署で資料、マニュアルなどの文書を全て英語で作っており、将来的には海外のエンジニアとの共同開発や海外事業の展開に取り組んでいければと考えています。
Q:ご移転やオフィスの拡張もその一環ということですね。今のオフィスを選ばれた理由、またオフィスづくりで工夫された点があれば教えていただけますでしょうか?
ここ(泉ガーデンタワー)へ移転する前はお台場にいたんですが、どこだったらエンジニアが集まるだろうかと検討しました。エンジニアは大学で研究開発するため、大学の近くに住むことが多いんです。
ですので、エンジニアを採用するには大学から通いやすい、行きやすい所がいいと。ここは東京大学も南北線で1本です。あとは、やはり知名度がある場所の方が採用面にも有利ということで、六本木の泉ガーデンタワーに決定しました。
オフィスづくりとしては、「エンジニアが開発しやすい環境」ということで、研究室をイメージしています。
具体的には、一人一人がしっかり研究に集中できる業務スペースがあり、必要な時にすぐ資料が取り出せる書庫があること。エンジニアはたくさんの本や資料を持っていますので、それらを並べても余裕があるスペースを個別に確保しています。
また、開発中にちょっとした打ち合わせや相談をすることはよくあります。そのため、デスクの間の仕切りは立ち上がれば周囲の状況が見渡せる高さになっていたり、ワークスペースの周りにはパーテーションがない空間を多数確保して、すぐに声をかけて打ち合わせができるようにしています。
開発していく中で相談したいことがあれば、近場にいるメンバーだけではなく、隣の開発チームのメンバーも含めて情報交換したりもしますので、すぐに、多様な人数でコミュニケーションが取れる環境にしています。
開発に集中できることと柔軟にコミュニケーションが取れること、その2点をうまく両立させられるようなオフィスづくりをしています。
Q:エンジニアが開発に集中できるという点では、高層階による静粛性はメリットですね。
そうですね。静かであること、あと景色が良いというのは環境として大きいです。
開発で長時間業務に没頭していると煮詰まってしまうこともあって。そんなときに見晴らしの良い遠景や夜景が見えることでリフレッシュできるというのは大きい要素です。
あともう一つ、オフィスに関してちょっとした当社らしさとして、会議室の名前を数学者の名前にしています。
例えば、今打ち合わせしているこの会議室は「Riemann(リーマン)」という名前です。リーマン幾何学、リーマン予想のリーマンですね。他には「Gauss(ガウス)」や「Schrodinger(シュレディンガー)」などの会議室があります。
Q:スタートアップ、ベンチャー企業は、会議室の名前にこだわられる企業が多く、その会社のカラーが出る印象がありますが、御社が数学者の名前というのは、とても「らしさ」があっていいですね。
これは代表の大田のこだわりです。アルファベット表記なので、あまり数学になじみのない方だと戸惑われたり、慣れるまでどう読んでいいか分からなかったりという問題はあるんですが(笑)、当社ならではのネーミングでユニークかなと気に入っています。
Q:弊社サービスの敷金半額くんを知ったきっかけを教えていただけますでしょうか。
1~2年前に会計士仲間から「敷金を流動化できるサービスがあるよ」という話を聞いたことがサービスを知ったきっかけですね。とはいえ、その時はどこでどんな会社がやっているのかまでは知らず「そんな珍しいサービスがあるんだな」ぐらいに思っていました。
その後、当社に入り、泉ガーデンタワーへの移転で敷金がそれなりの金額になったときに「何かこの資金を有効活用できる方法はないか」と考えていたところ、株主の金融機関が御社をご存じだったのでご紹介いただきました。
Q:「敷金半額くん」を利用していただいた具体的なポイントはなんでしょうか。
一番はタイミングですね。
会社として資本政策、資金計画を組むうえで、増資による希薄化はなるべく避けたかったので、敷金半額くんを活用して敷金を流動化することで、できることはやって増資での調達金額を必要最低限にする、と。
増資での資金調達とセットで利用して資金計画を組みました。
Q:今回、形としては敷金という固定資産の流動化ですが、感覚的には「一つの資金調達の手段」と捉えてご利用いただいたんですね。
その通りです。資金を事業に運用していくにあたって、その原資をどこからどう調達するか。もちろん売上もその1つですし、借入や増資も1つの選択肢です。
いくつかの選択肢があって、それぞれ固定化してしまうもの、流動的なものなどの特性がある中で「敷金の半額を流動化して手元資金を増やす」というのはコストとメリット、リスクとリターンが比較的読みやすい調達方法だと捉えていて、会社として取り扱いやすい、検討しやすいという点が非常に良いサービスだと思います。
Q:今回「敷金半額くん」を使って、オーナー様から敷金が半額返還されましたが、その戻ってきた資金というのは、どのように活用されましたでしょうか。
事業の運転資金として活用しています。
今は事業拡大に向けてエンジニアの採用が事業拡大のキーになりますので、人材への投資原資の1つになっています。
Q:それでは最後に、敷金半額くんをご検討されている方へ、実際にご利用いただいた立場からアドバイスをいただけますと幸いです。
ベンチャー企業の場合、どうしても開発投資が先行して資金調達が必要になり、株式の希薄化を招いてしまうので、そこをなるべく希薄化させないようにしていくという意味では、この敷金流動化「敷金半額くん」というのは、非常に良い選択肢だなと思っていますので、ぜひ検討されると良いのではと思います。
保証料についても、単純に金利と比較すると高いかもしれませんが、そもそも銀行がどれだけ貸してくれるのかということ、あるいはそのための事務手続の対応コストや増資で調達した際の資本コストを考えると、比較的簡素な手続で利用できて手元資金を増やせる「敷金半額くん」という仕組みは良い条件で保証料が設定されているのではないかと思います。
事業のフェーズ、タイミングに応じてうまく活用して事業をドライブさせる、そういった使い方をしていけばいいのではないでしょうか。
使う使わないはその時の判断となりますが、まずは「『敷金半額くん』というサービスがあって、資金調達の1つの選択肢になる」ということを知っていることは安心材料になります。
そのため、経営者、特にCFOの方や財務経理の担当者にはぜひ知ってもらえるといいんじゃないかと思いますし、今はまだ他社のCFOや管理部門の方にお話していてもあまり知られていないのかなという印象がありますので、ぜひ広まってほしいなと思いますね。